第36階層 アクレイシス・カーラードその3
性転換薬、それは前世の記憶の中にあったもの。
やらたと薄い本に、結構な頻度で乗っていた気がする。
男性が女性、女性が男性と、性別を変える事が出来る薬。
なんでも揃うダンジョンになら、あるかもしれないそんな薬。
そして、何かと大金を動かしているコイツなら興味本位で買っていてもおかしくは無い。
なるほど、王子は王子で、そういう切り札を持っていた訳か。
やたらとクォリティの高い女装だとは思っていたが、まさか本当に女性になって居たとは。
……とても眼福でした。
「そ、そんな筈が……」
第二王子も開いた口が塞がっていない。
まあこれで、サクラ姫がアクレイシス王子ではないという証明は出来た訳だ。
ショックを受けている内にと、第二王子を騎士団に引き渡し、さっさとお帰りになってもらう。
部屋に戻ってくると、サクラ姫はソファに座って、真っ赤になって俯いていた。
まあ、そら恥ずかしかろうて。
と言うか大丈夫その薬? もしかして元に戻らないとかないよね?
「い、いや、その……なんだ、え~と……実は、」
「変な薬を飲むのは程々にされた方がよろしいかと」
「へっ? えっ? 薬……?」
「性別を反転させる薬でも飲まれたのではありませんか?」
首を傾げて、何を言っているんだコイツ。みたいな目で見られるのだが、違ったか?
「い、いや、そ、そうなんだよ、実は!」
「やはり、そうでしたか。ちなみに、効果は何時まで続くので」
「へっ? 効果? 何時までだろう……?」
まあ、初めて飲む物なら分からないか。
このまま男に戻らないというオチは無いだろうな。
あれ? 本物の女性って事は、婚約者宣言したのは不味かったんじゃ?
いずれどこかでバレるにしろ、女性となってしまった以上、男性と婚姻が必要となる。
で、その相手にオレが立候補した訳だ。
やべえ、詰んでるじゃん。
なんとか元に戻す方法を考えないと。
「その薬を買われたのはどこで?」
「へ? 買えるの? あ、いや、そうだ! 宝物庫にあったんだよ!!」
「宝物庫に……どうやって効果を知ったのですか?」
「そ、その……使ってみたんだよ! そしたら戻らなくなっちゃってさ、アハハ……ハァ……」
勢いよく笑った後、何やらしょんぼりしている。
この王子でも反省する事ってあるんだな。
宝物庫か……誰が売ったのかも分からなければ、調べようもない。
せめて出土したダンジョンでも分かれば良かったのだが……
◇◆◇◆◇◆◇◆
「あ゛あ゛あ゛~~~~!! 私はなんで、あんな事を!?」
「中々、面白い漫才劇でありましたな」
胸につけてあるブローチから男性の声が響く。
コレは遠くのダンジョンで発掘されたという、遠方と通信が出来る魔道具だ。
私、アクレイシス・カーラードは、案内された部屋に付くとベッドに倒れ込むと同時に悶える。
「そんな劇をした覚えはないよ!?」
「どうしてあそこで薬だなどと嘘をついたので? 別に元々女性であったと言っても良かったではありませんか、そしてそのまま……」
「そうしようと思ったよ! でも突然、あんな事を言われたから、思わず流されちゃったんだよ!」
まったく、悪い所がでましたなあ。とブローチから声が聞こえる。
そもそもどういう発想?
なんでスルッとそういう薬を思い付く訳?
普通ちがうでしょ! お前、実は女やったんかあ、って驚く所でしょ!?
「あ゛あ゛あ゛~~~~!! もう!!」
そして、何やら胸のモヤモヤが止まらない。
彼は言った、どんな私であろうとも、他の誰もが見放していようとも、自分だけは地獄の底まで付いて来てくれると。
彼は言った、私の事を世界中の誰もが認めなくとも、唯一最愛の婚約者であると。
彼は言った、たとえこの身が滅ぼされようとも、決して私を見捨てはしないと。
そこまで言われて何とも思わない私ではない。※多少の誇張が混ざっております。
ただの友情だけでそこまで言うとは思わない。
もしかして、実は私の事を女だと気づいていたんじゃ?
その上でそんな事を……と、思ったのに、だから勇気を出して女だと打ち明けたのに……ホントもう! なんだよ、もう! こっちの気も知らずに!!
何がTS薬だよ? 何、性転換薬って? あるのそんなの? 聞いたこたぁねえわ!
女だよ、生まれた時からずっと!
ただ隠してただけだよ!
ホントもう! もう! こっちの気も知らずにぃ!!
別に大した理由じゃない。
父上と母上には、なかなか子供が出来なかった。
ようやく生まれた子供が女の子だった。
ここまで子供が出来なかったという事は、今後も出来る可能性は低い。
跡継ぎが女の子では不味いので男として育てられた。
と、思ったら、ポコポコと弟が生まれたんだけどね!
神様のバカヤロー!
弟が生まれたんだから、私はお役御免だよね? って思っていたら、思いのほか父上が頑張る。
いや、女性に王様は無理でしょ?
一度決めた事だからって、ほんと男の人は妙な所が頑固なんだから。
彼だって……べ、別に私が良いとか、そ、そんなんじゃなくて……頑固だから……
座りなおして、またポフッってベットに倒れ込む。
「良かったですなあ、婚約者が出来て。爺はもう、絶対に無理だと……」
「その無理は違う無理でしょ! 私だって最初から女として育てられれば……」
「育てられれば、彼と結ばれることは絶対になかったですがね」
むう。私は体を起こし、ベッドに腰かけて頬を膨らます。
「それでそっちはどうなのよ? ご無体な事はされていないかね?」
そして無理やり話を逸らす。
「王子、おっと今は王女でありましたな。アクレイシス王女に忠誠を誓う者など居ませんからな。ある事ない事を言い放題ですわ」
「ひでえな、おい」
暫くそうやって近情の確認をしている時だった。
突然、バァン! と扉が開いたかと思うと、フリフリのドレスを纏った少女が部屋に入って来る。
「そんなモノに頼っているからいけないのですわっ」
少女はそう言うと、私の胸のブローチを引きちぎって窓の外へブン投げた。
唖然として、キランと飛んで行ったブローチを見送る。
その少女は両手で私の顔を挟み込むと、ズィっと顔を近づけて来た。
「このままで良いと思っていますのっ?」
「へっ、いや、良くはないと思っています」
「なら、立ち上がるのですわっ」
え、でも……ここで争えば国が混乱する。
「構わないじゃありませんか国なんて! 私は親に捨てられました、国にだって見放されていました。あなただってそうでしょう」
えっ、そうなのかな? そこまでじゃないと思うけど……
「その中で私を救い上げてくれたのはイース様、ただお一人! あなただってそうでしょう!?」
「…………その通りだ」
「そのイース様が、あなたに王になれと、そう言っているのですわっ」
ならば、王になるべきじゃありませんか? と良い笑顔で答える。
「しかし、私は本当に女性なのだ、だから王になんて……」
「女性は王様になれない? 誰がそんな事を言ったのですか? イース様はなれると、そう仰っているのですよ。彼のお方が仰った以上、それは現実に起こりえる事象ですわ!」
「ふむ……そうだよね…………その通りだよ!」
少女は立ち上がり手を差し出して来る。
「さあ、この手を取りなさい。この私、ガーネット・ゼロワンが、あなたを王に導いて存じましょう!」
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