第29階層

 やはり、ダンジョンと言えば冒険者だろう。

 とはいえ、ギルドの誘致は断ったしなあ。

 自前で募集して集まるだろうか?


「土木チームにやらせますか?」


 ファリスさんがそう言ってくる。

 いやいや、さすがに無理じゃない?

 ダンジョンで穴掘りは出来ませんよ。


「武力も十分にあると思うんですがね」


 そんな事より冒険者だ。

 とりあえずダメ元で募集してみよう。

 なお要件はコレで。


「えっ、コレで?」

「ええ、コレでお願いします」

「いやいや旦那、コレで集まったらおかしいっスよ」


 アイサムもオレが出した条件を見て顔を引き攣らせている。


「良いんじゃありませんか、来なかったら来なかったで」

「そうですね、土木チームにやらせましょ」


 ブロスとファリスは、すでに来ない事を前提に話を進めている。

 いやいや世の中、広いんですから少しぐらいは集まる。と良いな。

 そうして幾つかの町で冒険者を募集したところ、意外なほど人が集まった。


「なんで?」

「冒険者だって安定を求める時代なんですかねえ」

「いやいや、きっとこれ全部スパイじゃねえっすか?」


 まあ、中にはそういう奴も居るかもしれないが、日本円を稼いで来てくれるなら別に良い。

 探られて困るような物も無い。と思う。


「ねえ、あなた達、本当に良いの? アレで」

「はい……僕達の様な駆け出しにとっては十分すぎるぐらいです」

「ある意味、画期的ですよ。減る物は無いのだし、それでどうなるかも見てみたいです。それに、嫌なら他所に行けば良いんでしょ?」


 初めてやる試みだ。

 だから、まずはやってみて調整していけば良い。

 人が集まらなければ始まらない、という第一段階はクリア出来た。


 あとは、実態に合わせて調整していこうじゃないか。


 そうしてオレは皆が言う、アレな条件で冒険者達を雇う事を始めた。

 最初に条件を出して、納得した人だけに絞ったのが良かったのか、概ね反発も無く、うまく稼働している。

 むしろ好感触な人の方が多いのは不思議なところだ。


「条件は同じで良いので、土木チームも参加させても良いですか?」

「ダンジョンに与えるモンスター狩りはどうするのですか?」

「両方やらせます」


 スパルタじゃね?

 えっ、本人たちがヤりたいって言っている?

 労働基準法に違反しない範囲でやってね。


 と、あまり無理させないレベルでならと許可を与える。


 この村は、ほぼ共産主義社会である。

 能力があろうとなかろうと、やる気があろうとなかろうと、皆、一律の報酬となっている。

 頑張っても貰えるモノが一緒なら、やる気もなくなると言うもの。


 そこで報酬は一律であっても、頑張った人は褒め称える事にしている。


 と言っても単純なもので、村に貢献度が高い者を順位付けし、食堂や体育館などに張り出しているだけだ。

 評価は村人達の投票プラス、オレの独断で決めている。

 その所為で週末のスポーツ大会ではかなりの熱が入っている。


 スポーツ大会は全員が集まって順位を競い合うんだ。


 そこで活躍した人が村人達の票を集めやすいのは当然の理。

 他に大した娯楽も無いので、そらもう熱狂される訳だ。

 ただ、そこばかりに票が集まってもどうかと思うので、オレの独断という別枠も設けさせてもらっている。


 さらに、村の防衛に携わり亡くなった人達を祭る場所も用意した。


 村の為に散っていった人達の名を刻み、永遠に残していく。

 生きている者に誇りを与え、散っていった者の栄誉を称える。

 これで少しはマシにならないかなと思って始めたんだが、後者はちょっとヤバい現象になり始めている。


 後世に名を遺すと言うのは、思った以上に反響が大きかった様なのだ。


 なにせ平民、それも盗賊崩れが、名を残し後の人に称えられるのだ。

 貴族でもない自分の名が残る、毎朝、土木・防衛チームが集まって黙祷を捧げられる、それは死しても生き続けるような物だ。

 ここで祭られる事こそ栄誉、この墓標に名を刻まれるのなら村の為に死んでこそが本望だ。などと、前世の武士のような事を言いだす人が増えて来た。


 これはヤっちまったな、とは思ったが後の祭り。

 今更撤回するには、すでに死んでいった人に申し訳が立たない。


 精々、無茶をしないよう言い含めるしかない。

 そして今は、村の為になる事、と言えばダンジョン探索。

 そりゃそっちをヤりたい、と思う訳ですよ。


 さらにだ、ダンジョンのやろう、このシステムをパクリやがった。


 ある日、やけにダンジョンの入り口が綺麗になっているなと思ったら、幾つかの彫像のような物が建っていた。

 なんだろな? と近づいて見ると、なにやら台座に番号が振られている。

 傍に立っていたハーキャットさんの方へ視線を移すと『強き者を称えよ』というアニメキャラのスタンプが表示される。


 どうやら、ダンジョン独自の基準からランキングを作り出した様なのだ。


 上位3名には地面からスポットライトすら当たっている。

 2位と3位は、それぞれ銀色・金色となっており、トップの彫像は虹色にすら輝いている。

 というかこの虹色、伝説の鉱物、オリハルコンじゃね?


 そうなると一気に盛り上がる、ダンジョン探索。


 我こそはオリハルコンになるんじゃ~! と言った冒険者達がこぞってダンジョンに向かう。

 さらに噂を聞きつけた冒険者達が腕試しとばかりに集まって来る。

 冒険者は冒険者でランクがあるのだが、決めているのはギルドの人間なので、納得がいっていない人も居る。


 だが、ここは敵であるダンジョンが決めているのだ。忖度などあるはずもない。


 ここに建つ者こそが本物だ、と言わんばかりに人が集まって来る。

 ハーキャットさんは毎日ホクホク顔でござる。

 例のアレな条件でも人は来るし、村のチームも負けまいと必死である。


 ますますダンジョン探索が活発になっていくのであった。

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