第27階層
「このお米って凄いですね! ただ固めてお塩を振るだけでもおいしいなんて!」
最近は、食堂に来て食べる事も多くなりました。って喜んでいる。
いや、食事は普通、食堂で食べる物なんだけどね。
「中に包めば嫌いなお肉でも喜んで食べて頂けます!」
いや、肉が嫌いな訳じゃないんだよ?
肉より穀物が好きなだけで。
「こないだ教えて頂いた、カツ丼でしたっけ、食べた後、うぐぅ! って唸ってましたよ! うぐぅって」
そう言って、顔を綻ばせるキャロウェイさん。
牛丼のようなお肉を乗せるだけでも美味しいですよ。
こっちの世界じゃ邪道なんだろうけど。
新たに出来た食材、米。
それを使って、キャロウェイさんとうちの調理チームと一緒に、泊まり込みでアレだコレだと頭を悩ませながら様々な料理を完成させる。
そして、それを持ってバーセルク兄上のアトリエまで通い妻である。
夫婦円満のコツは食にあり、とも言いますし、美味しい料理で胃袋を鷲掴みしていれば、愛されなくてもうまくやっていけるんじゃないですかね。
「実家の料理長に色々教えて頂いて……到底無理かな、とは思っていましたが、イース様から教えて頂く料理は、簡単で、と~っても美味しいですね!」
この世界の肉料理は時代が進みすぎているからなあ。
そりゃ調理方法も複雑だよ。
その点、穀物の料理は方法と分量さえ覚えれば大概できる。
ダンジョンに出来た自動販売機は、日本円を入れると、入れた金額に応じて米や小麦が下側の方から吐き出される。
それを用意した籠や箱に入れて持ち運ぶ。
そのお味は、前世の物に勝るとも劣らないモノであり、色々試して作った料理はどれも絶品だった。
ただ、これホントに食べて大丈夫なのか分からないので、今のところは、うちの関係者だけで試して貰っている。
「イース! イース・クライセスは居るか!!」
そうこうしていたある日、またもやそう言って怒鳴り込んでくるお方が。
「どうかしましたか? バーセルク兄上」
「お前、我が愛しの妻、キャロウェイと浮気をしていないだろうな?」
「は?」
今、なんと?
「だから浮気をだな」
その前ですよ。
「ふむ、我が愛しの妻、キャロウェイか?」
どっから生まれたんですか、その愛?
確か、縁談ではそんな気配も無かったよね?
妻どころかメイド扱いだったよね?
「米だ、あの米には愛情が詰まっている、その愛情を食べて、私は目覚めたのだ」
ヤバい成分が入ってんじゃね、その米。
どうしよう、結構在庫あるんだけど全部処分しないと。
いや、処分するとか言い出したら暴動が起きるな。
村の人達からも好評だし。
小麦だって、もうダンジョン産じゃないと耐えられないって言うし。
「アレを食べていると幸福を感じるのだ、そして体の調子も良くなる」
どうやらキャロウェイさんの美味しい料理を食べる事により、食べる楽しみを知ったらしい。
そして、きちんと食事を摂っていれば、体調も良くなり、より一層、作品を作るのに打ち込めるようになったそうだ。
芸術を作るのに必要なものは時間ではない。
心と体を万全なものにメンテナンスする事である。
良い作品を作るには、まずは自分の心と向き合わなければならない。
心が健康でなければ、健全な作品は出来上がらない。
その上で体も健康であれば言う事はない。
まあ、極限状態でしか出来ない作品もあるだろうが、それはバーセルク兄上が目指すモノとは違う。
「浮気なんてしていませんよ。そんなに心配でしたら、婚約発表を早めますか?」
「そんなまどろっこしい事は要らぬ、すぐに式を挙げよう」
いや、貴族には作法と言うものがですね……
「キャロウェイも是非そうしたいと願っていたぞ」
そうだな……婚姻前に子供が出来ても困るし、さっさと式を挙げた方が良いか。
うちの両親が何と言うか分からないが、あの兄上がその気になっていると言えば、早い方が良いと急ぐかもしれん。
あとは向こうの両親さえ良ければ婚約はすっ飛ばすか。
となると、やはりこれは必要だろう。ウェディングケーキ。
ケーキと言えば、王宮の料理人は以前のレベルの小麦でも結構な品物に仕上げていたよな。
第一王子にそのレシピを売って貰えないか相談してみようか?
この小麦粉でも持って行けば、ホイホイと釣れるかも知れん。
そういや、あの王子も良い年なのに婚約話とか持ち上がらないな。
進んであの王子と結婚したいという令嬢も居ないのは確かだが。
それでも王様もまったく動かないというはおかしな話だ。
王様は最終的にどうするつもりなんだろな、あのダメ王子。
国外と話がついていそうではある。
そのうち、国外留学、そのまま帰って来ないというパターンもありえそう。
その前にうちの地下道を認知して貰わないと。
日本円も稼がないとなあ……領地の流通通貨にしてしまったから余分があまりない。
この素材を持って行ったら、これからも催促されそうだしなあ。
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