第26階層 やりやがりましたよ
その後、兄上は時間が惜しいと言って、碌な話もせずに王都に戻って行った。
これはダメだなあ、結婚後もうまく行きそうにない。
まあ、キャロウェイさんのご両親はそれも織り込み済みの様だから良いものの。
もし破談しても、今後は縁談とか組めそうにない。
父上もオレの縁談を考えた時はこんな気持ちだったのだろうか。
「あの……打ち合わせの前に、少しご相談があるのですが……」
兄上が出ていった後、キャロウェイさんがそう言ってくる。
「実は私…………料理はした事がなくて……」
私じゃなくても普通は貴族の方はやらないでしょうね。
「その、一緒に住まわれるまでには、なんとかしようとは思うのですが、料理ばかりは技術のいる作業なので……その、専属の方より美味しく作れるかどうか……」
メイドが居るのに奥さんに家事をさせたりはしないだろう。
ただ、基準をそこに求めただけであるから、出来なくても大丈夫。
……大丈夫だよね?
あんまり大丈夫じゃない気がしてきた。
しかし、料理を覚えると言っても、バーセルク兄上は肉をあまり食べない。
で、肉料理が基本であるこの世界の料理人に教わっても、兄上を唸らせる料理は作れないだろう。
ここはグルメチートいっとくか?
とは言っても、素材がなあ。
せめて種だけでも出してくれないかなダンジョンさん。
ダンジョンコアは……ボルヴェイン兄上が向かったダンジョン、一個は消滅して一個は陥没して地面に埋まったとか。
何をやったらそうなるの?
消滅とかどういう事?
ダンジョンの崩壊は、まだ分からない事は無いが、どんだけ暴れているのあの兄上。
これ以上は任せておけないので、なんとか拝み倒して騎士団に戻ってもらった。
存分に暴れられたようで、そこそこ満足気だったのがちょっとムカつく。誘ったのはオレなんだけどさ。
「バーセルク様が穀物を好きなのはリサーチ済みです。しかし、我が領地で採れるものはクライセス領と比べ質が格段に落ちます」
なので、白銀の小麦粉を分けて頂けないかと言われる。
白銀のかあ……こないだ、王子に賄賂したので全部使いきったんだよな。
良い所を集めた小麦粉。
ダンジョンコアさえあれば、あんな物なんて目じゃないほどの品質のブランド小麦が作れるのに。
ダメ元で言ってみようか?
ダンジョンコアくれたら、白銀どころか、白真の小麦粉が手に入りますよって。
白真は白銀の三倍上質とか言って。
「ダンジョンコアなら倉庫に幾つか眠っていますよ」
えっ、あるの?
ここいらは山岳地帯で、昔はかなりの数のダンジョンがあったそうだ。
人が住める領地を広げる為にはダンジョンが邪魔なので、何度も間引きして来たんだと。
領地の収益は宝石だけで十分なので、売れる筋が限られているダンジョンコアを態々売る必要もなく、倉庫に眠っているそうだ。
「ダンジョンコアを小麦の栽培に使うのですか?」
「まあ、私達には思いもよらない方法ですわね」
ご両親が興味津々と言った風に聞いてくる。
「いえ、まあ……まだどうなるか分からないのですが、高い確率で良い小麦に成長しそうなのですよ」
もし、種が取れれば融通します、とか言って、ダンジョンコアを二つほど譲ってもらう。
おっしゃコレでプラント農場ゲットだぜ!
とか思っていたのだが――――コイツやりやがった!!
ハーキャットさんの目の前にダンジョンコアを並べると、小躍りするようなアクションモーションをするので、そこに小麦粉を見せて、これのプラント農場プリーズってやってみたんだが。
なんと! お米と小麦が――――出る自動販売機が出来上がった。
しかも、すでに精米や粉末状にされた奴。
…………あれ? プラント農場は? どっかに農場があって精米した奴を出しているの?
じゃあ、その場所教えてよ。と言っても首を振られる。
なんでだよ!
えっ、すでに精米された米や粉末にされた小麦が出たらそっちの方が良いんじゃないかだって?
でもね、この自動販売機、日本円しか使えないんだわ。
そして精米済みなのでこれから芽は出ない。
なので、これを持ち出しても地上で栽培は出来ない。
この米と小麦が欲しければ、ダンジョンのモンスターを倒して日本円を稼がなければならない。という。
油断してた!!
見た目の可愛らしさに惑わされていたが、こいつは人間を喰うダンジョンだ。
そろそろ人間も食ってみてえ、と思ったかどうかは知らないが、人間にダンジョン探索を進めさせる方向で来やがった。
これまでの養殖で、ダンジョンもだいぶ広がっている。
階層も増え、探索出来ていない場所もかなりある。
せっかく作ったんだ、きちんと探索しろとでも言いたいのかもしれない。
まあ、これ以上成長しても、探索するべき人間が居ないんじゃ意味が無いのは確かなんだが。
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