第25階層
「それで相手のキャロウェイ・ファラと言うのはどんな女性だ? 家事や料理は出来るのか?」
縁談相手の家に行く途中でバーセルク兄上がそう問いかけてくる。
何故に貴族の女性に家事や料理を求める。
メイドにしてこき使うつもりか?
やっぱダメかなこの縁談。
「兄上とも何度かお話しされた事があると言っておりましたが。たしか学園の同級生のはずですよ」
「ふ~む……キャロウェイ…………覚えておらんな」
「ファラ家は宝石の産地で有名ですが……」
「宝石になど、興味はない」
サイですか。
ほんと絵画一筋ですね。
でも、宝石から絵具を作る事が可能なんですよ?
「なんだと!?」
「こないだ渡した青色の絵具、あれは宝石を原料としています。宝石で作られた絵画、見てみたいですねえ」
「ぬぐぐぐぐ……」
「あとは、穀物栽培にも力を入れていますよ」
オレがそう言うとホゥと感嘆の声を上げるバーセルク兄上。
兄上は大の穀物好きで、不味かった時代から良く食べていた。
そのおかげか非常に頭脳は優秀で、学園でも生徒代表を一年から務めていた。
顔もオレやボルヴェイン兄上と違って美形寄りで、女性からもたいそうモテたそうだ。
まあ、ボルヴェイン兄上は顔が筋肉になっているから美形かどうかは不明だ。
なお、オレはいたって普通です。
今までの人生で一度も女性にモテた事はありません……
まあ、そんな兄上なんで婚姻の申し込みもかなり来ている。
ファラ家のキャロウェイ嬢もその一人だ。
世間一般でいう行き遅れに足を踏み入れながらも粘っている。
粘り勝ち出来るかどうかは、今日これからの縁談で決まる。
是非に勝利をもぎ取ってほしい。
オレも精一杯のバックアップはしよう。
そういう訳なんで、色々吹き込んでいる途中だ。
「お前は掃除や洗濯が出来るか? 料理は?」
「え……はい?」
だから何故それを求める。
メイドだって料理人だって屋敷に居るだろ?
顔合わせが済んで腰を落ち着けたとたん、そんな事を言い出すバーセルク兄上。
「自分の事は自分で出来るな? 私のやる事に口を出さないと言うのであれば、好きにすれば良い」
「あの……メイドとして雇って頂けるので?」
「お前は何を言っている、今は縁談の話をしているのだろうが」
お前は何を言っている。は、こっちセリフですよバーセルク兄上……
お前を愛することはない、ぐらいは言うかとは思ったが、さらに斜め上だよ。
メイドを雇いに来たんじゃないんですよ?
家事や料理が出来るかなんて、縁談でする話じゃ無いんですよ。
「何を言うイース、お前がそういう女性を選んだ方が良いと言ってたではないか」
え? なんでオレが……? いや待てよ、だいぶ昔に両親からどんな女性が良いか聞かれた時に……
いやあの時は、貴族から抜けて平民になる気マンマンだったから、自分の事は自分で出来る、家庭的な女性が良いとは言った。
そういや両親から縁談の話をされなくなったのは、その辺りぐらいだったか?
貴族の女性に当てはまる人は居ないだろうからなあ。
あの時のご両親も、今のオレと同じ心境だったのだろうか……
「家庭的……ですか…………はい! 大丈夫です! 私、とっても家庭的です! こんな辺境なので、メイドと一緒に掃除や洗濯は、やった事があります!」
やった事……か。
まあ貴族女性ならそのレベルだよね。
でも本当に良いの? 縁談でこんな事を言い出す兄上で。
ほら、ご両親も呆れてモノも言えない状況ですよ。
「まあ、キャロがそれで良いのなら……」
「そうねえ……最悪出戻りでも、熱が冷めるのなら……」
「キャロ一人ぐらい養える蓄えも十分ある。孫が一人二人増えても問題ない、というか連れて帰ってくれるなら、そっちの方がありかもしれん」
もうご両親は結婚後の破綻まで予想されているご様子。
「私、バーセルク様の妻になれるなら、なんだってします!」
体を乗り出しながらそう答えるキャロウェイさん。
そこまでこの兄上が良いのかねえ。
芸術バカで、どう考えても愛してもらえそうには無いのに。
「バーセルク様はもう、それはすごい人気でしたよ。全財産を貢いでも良いという人も多数いたんです!」
それを聞いてご両親がギョッとしている。
大丈夫ですよ、兄上には他所に迷惑かけたら援助禁止と話をしていますので。
芸術には金がかかるが、そこはクライセス家の資金でなんとかなっている。
おっしゃ~、ザマァみさらせ! ソフィア、ステイシー、その他、私なんか絶対無理って言ってた奴、どうだ、獲ったド~!
などとガッツボーズをされている。
このお方もちょっと変わっているな。
行き遅れるには、それなりの理由がある訳だ。
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