第23階層 リニアモンスターカ―再び
おいっ、なんてモノ連れて来ているんだよ!
「しゃ~ねえだろ、あの馬車を見て乗ってみたいって言うんだからよ」
そもそも誰の所為で、この王子様に頭が上がらなくなったんだよ。などと言う。
それはオレの所為か? いや、オレの所為なんだけど。
と言うかおめえ、この王子様、こっそり王宮を抜け出して来ているんじゃないか?
実質、王子様を誘拐している様なもんだぞ。
「なに、心配は要らないさ。一週間ぐらい空けても誰も探しやしないって」
王子様がそんな事を言う。
それはそれで問題発言だぞ。
一国の王子が行方不明でも誰も探さないって……もう終わっているジャン。
やはり、このお方を王にするのは諦めるしかないのか。
「まあ、なんだね、君の態度次第では、考えない事も、ないのだよ?」
良い笑顔をしながら、そう言ってオレの肩に手を置く王子様。
こいつはぁ、アレだ、ウドゥの奴を嵌めた時と同じ笑顔をしてやがる。
しまったな、弱みを見せてはならない相手に弱みを作ってしまった。
なんか骨の髄までしゃぶられそうな予感だゼ。
いやっ、まだだ! まだ、通路がある、ぐらいしか知られていない。
いくら通路があろうが、距離がある。
大きさだってさすがに大群が通れるほどじゃない。
だったら、まだ、挽回は可能なはず!
と思った時だった、なにやら奥の方から光が見える。
それは見る見る大きくなっていき、やがて巨大なモンスターの顔がやって来る。
それはオレの目の前でゆっくりと停止し、大きな口を開くのであった。
ソッと隣を見てみる。
リニアモンスターカーに張り合うように、あんぐりと大きな口を開けている王子様がいる。
あと、ウドゥの奴はいつの間にか遠くへ避難している。
そういう所はちゃっかりしてやがるな。
目の前に止まったリニアモンスターカーの口から一人の少女が出てくる。
オレはその少女に問いかける。
「王都に向かったはずですが、何故戻って来たのですか?」
「知らないですよ、急に止まって逆行しだしたのですから。イース様がここに入られたので引き返されたんでしょ」
そこから出て来た少女、オレの護衛役の一人、ファリスさんがそう答える。
懐いてくれているのは嬉しいが、時と場合を考えて欲しかった。
最早これは、ちょっと言い訳が出来ないんじゃないだろうか?
王都まで続く通路、そこには巨大なモンスターが居て、出入りが自由になっている。
「さて、アクレイシス王子。私はあなた様の僕でございます、何なりとお申し付けください」
そう言いながら王子様の前に膝をつく。
だからコレ、認知してください。
さっき言ったじゃありませんか、オレの態度次第では考えてくれるって。
武士に二言はありませんよね?
えっ、自分は武士じゃないって?
そんなの些細な違いですよ。
その後、騒ぐウドゥを連れてリニアモンスターカーに乗り込み王都へ向かう。
「おい止めろ、なんで俺を巻き込むんだよ。勘弁してくれよ……」
諦めろウドゥ、ここまで知られたからにゃ、唯で帰す訳にはいくめえ。
「お前も大概ワルだな!」
「素晴らしい! 素晴らしいよ君! こんなに速い、凄い、揺れない!」
ガクブルなウドゥを他所に、そう言ってはしゃいでいる王子様。
先頭車両でジャンプしないでくれないっすかね、危ないでしょ?
えっ、私が跳ねたぐらいでどうこうなるなら荷物なんて運べないだろって? そりゃそうッスけど。
僅か一時間足らずの後、最新鋭の馬車で一週間かかった王都へ辿り着く。
さすがのウドゥも開いた口が塞がらない。
「無茶苦茶だなあ、おい」
「えっ、ほんとに王都? まだ日も高いよね? えっ、なんで着いているの?」
王子様も困惑されてござい。
いくら早いと言えども、今日中に着くとは考えてもみなかった模様。
しかも、今日中どころか、ちょっとはしゃいでいる内に着くと言う、とんでも仕様。
いやほんと、リニアはインチキですよね?
天候次第では飛行機に引けを取らない。
しかも乗り降りも簡単だ。
その上安全。
さあ皆さんもリニアの完成を、首を長くして待ちましょう。
「素晴らしいよイース君! こんな物が出来てしまっては、全力で庇わざるを得ない」
だから、また乗せてね。などと言う王子様。
王子様の出奔範囲が広がったなあ……
まあ、王都で暴れるよりマシかもしれんが。
「そうだ、君達はあのダンジョンに住んでいるんだよね? 是非、私も住みたい! 私の別荘をそこに作ってくれ!!」
また、無茶ぶりをする。
「しかし、あいつ等も島流しに合うような覚悟で行ってたからな。こんな短い時間で帰って来られると聞いたら喜ぶだろうよ」
ウドゥがそう言う。
あの女性陣3人の事かな?
でもこれがバレたら不味いので、そうそう移動は出来ないと思うけど。
「気持ちの問題だぜ。いつでも帰れる。と、もう帰れないかも知れない。じゃあ、働く意欲も全く変わってくる」
確かに。ただなあ、あっちの方が快適で、もう帰れなくても良い。と思うようになるかも知れねえがね。
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