第22階層

 ショップエリアに入ったウドゥ達は、あちこちを見る度に感嘆の声を上げている。

 特にレジの仕組みを教えた時は驚いていた。

 他の店にも導入できないか真剣に考えていたぐらいだ。


 問題が一つあるとすれば、入口の都合上、あまり大きな荷物は運び込めないって所ぐらいだ。

 現状出入り口はあの自動ドア一つ。

 バックヤードみたいな倉庫は奥にあるが、そこから先へはどこにも繋がっていない。


 なお、バックヤードの中にもカプセルホテルの部屋があり、泊まり込みでも可能な作りになっている。


 というかこのダンジョン、なんとかして人間を留め置こうと考えてないか?

 さすがにコンビニにホテルを併設している場所は無かったぞ。

 人間を呼び込んで、そこから逃がさない。


 ある意味、ダンジョンらしい行動かもしれない。


「どうですか? ショップエリアの感触は」

「これに文句を言う奴がいたら、顔を見てみたいぜ」


 と言うかコレ、冷蔵庫や冷凍庫やと言われても使い道が思い付かねえぜ。って言う。

 まあ生鮮食品などを持って来られる距離じゃないからな。

 例のリニアモンスターカーを使わない限りは。


 王子より先にコイツを巻き込むか……


 なお、好奇心旺盛なサクラさんは、アイスエリアに入り込んで凍えている。

 それ、インスタにアップしちゃダメだよ? 炎上しちゃうから。

 まあ、この世界には無いから大丈夫かな?


「何、まだ見せたいモノがあるって?」


 オレのセリフにちょっと腰が引けているウドゥ。

 勘が良いのか、少しヤバそうな雰囲気を感じ取ったようだ。


「そうですね、ここだけの話にしてもらいたいモノなのですが……」

「おいおい大丈夫かよ……」


 なにやらチラチラとサクラさんの方を見やるウドゥ。

 ん? 彼女が何か?


「ああ、いや、なんでもねえ、とりあえず俺だけ向かうわ」


 ウドゥは連れて来た三人の女性にサクラさんの世話を頼む。

 彼女は貴族だったようだから、慣れるまではお世話も必要な様だ。

 それにしてもウドゥの奴、やたらとサクラさんの事を気にかけているな。


 実は陰ながら懸想していたとか? うわ、似合わねえ。


 そんな事を考えながら、リニアモンスターカー用の通路まで案内する。

 今はバレないように王都の方へ移動させているからここには何もない。

 ただ一直線に続く通路があるのみ。


「ここがどうかしたのか?」

「この方角にはちょうど王都があります」


 そう言って暗闇の先を指さす。


「それが何か? まさかおめえ……」

「距離もちょうど、それぐらいあります」

「オイオイオイ、そりゃおい、城壁貫いているとか言うなよ?」


 そのまさかだったりする。

 オレは無言でウドゥを見やる。

 ウドゥの奴の顔が引き攣っている。


「言っとくが、クーデターには俺は関わらねえぜ」


 何故にクーデター?


「最近、第一王子の名を使って派閥を作っているらしいじゃねえか」


 それと関係あるんだろ? と続ける。

 確かに関係はある。

 だが、順序が逆だ。


 この通路を認めてもらう為に彼に王になってもらうのであって、彼が王に成る為に作った通路ではない。


「別にクーデターなど起こさずとも、彼は王位継承権第一位ですよ」

「建前上はな、だが今のままでは確実に無理だ。下の王子達も納得すまい」


 ヤれるとしたら、電光石火で他の王子達を拘束し、現王に剣を突き付けて退陣を迫るしかない。と続ける。


「当然、警戒だってしている。ここ最近では検問の数も倍増した」


 そんな所にこんなモノがあると知れてみろ、確実に打ち首だぞ。などと脅して来る。

 そもそも、王族って奴らはモンスターより人を恐れている。


 だからあちこちに壁を作る。

 対モンスターなら、町の中にまで壁は作る必要がねえ。

 それを無視できるような秘密の抜け道など作ってみろ、そりゃおめえ、唯で済む訳がねえだろ。


 ウドゥの奴は真剣な顔でそう言う。


 やはりヤバいですか。

 そうですか、そんなに不味いですか。

 そんな気はしていました。


 でもコレ、どうしようもないんですわ。


 だってダンジョンの一部なんで、土で埋めても数日で元通り。

 精々出来るのは、入口をカモフラージュして分かりにくくするぐらい。

 それだって魔法を使えばすぐにバレるようなもんだ。


「とにかくコイツは、今日連れて来た、サクラ嬢にはバレないようしろ」


 と小声で言ってくる。

 なぜサクラさんにはバレたら不味いので?

 もしかしてアレ、籠の鳥とか言うのは真っ赤な嘘で、王都の検視監だったりしないだろうな。


 まれに商人にまぎれて抜き打ち検査をするとか聞くし。


「違げえよ、アイツはな……」


 そこまで言って、口をつむぐウドゥ、何やらオレの背後を注視している。


「お……おお、随分大きな横穴だな! こんだけデけえと距離は大した事が無いよな!」

「…………え、ええ、決して、王都まで続いていたりは、しませんよ?」


 オレの背後に誰か居る。きっとヤバいのが。


「ふふっ、ジャジャーン! どこでも音声~。これはですね、遠くの話し声をすぐ近くに居るかのように聞けるのですよ」


 ウドゥの奴が額に手を当てて天を仰いでいる。

 ソッと振り返ってみると、小さなブローチを掲げたサクラさんがそこに居た。

 どうやらその魔道具でオレ達の話を盗み聞きしていたようだ。


「さてさて、とんでもない事をしてくれたね。さすがにコレは私でも庇いきれないよ」


 そう言ってオレの隣に並ぶ。


「まだ気づかないかね? フフフッ、私の変装も中々のものだな! ジャーン! 私だ!!」


 そう言って髪を引っ張る。


 変装を解いた、そこに居たのは――――この国の第一王子、アクレイシス・カーラード、その人であった。

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