第19階層 ショップエリア

「レジはおろか、冷蔵・冷凍エリアまで完備ですか……」


 そのコンビニはかなり再現度が高かった。


 レジはまあ、電子パネルがない古そうなタイプだが、奥の棚では冷風が吹きでて、食品を冷やす事が出来るようになっている。

 さらに、一部の開き戸の中は凍えるような冷凍エリアになっており、冷凍設備も完備されていた。

 冷風を吹き出したり、凍結エリアを作る事など、ダンジョンにとっては朝飯前なんだろうけど。


「イース様、これは何かわかりますか?」


 ファリスがレジ横のドリンクサーバーを弄りながらそう問いかけてくる。


 ああ、それはな、こうやって中を開け……開かねえ、これどうやって開けるんだ?

 色々試してみるが開きそうにない。

 というかコレ、ガワだけ再現しているんじゃ……


 本来あるはずの継ぎ目が見当たらない。


 とりあえず二つあるドリンクのボタンを押してみる。

 なにやら水が流れ出す。

 もう一つのボタンも押してみる。


 なにやら温水が流れ出す。


「ああ、そういえば、あの真っ二つになったダンジョンコアがあった辺りは温泉で有名な町があったんですよね」


 その温水に手を差し出しながらブロスがそう言ってくる。

 もしかしてこれ、温泉水?

 飲んで大丈夫なんだろうか。


「その街では普通に飲まれてましたから大丈夫でしょう。むしろ体に良いとも言われていましたよ」


 これ、いくらでも出るのかな?

 だとすれば、地下生活の環境がかなり改善されるな。

 ここで暮らすにあたって、水の問題はあったんだよな。


 ハーキャットさんが居る場所にも水が出るライオンの顔があるが、あれだけでは全く足りない。


 今は、態々地上から運んで来ている。

 ダンジョンに井戸とかも作れない。

 水路を引くことも検討したが、洪水になると流れ込む水で地下が冠水してしまう危険がある。


 なかなか素晴らしいエリアを提供してくれるじゃないかダンジョンさん。

 これならプラント農園にだって引けはとらない。

 ……いや、やっぱアレいるわ。


 あそこの領地のダンジョンは幾つかあるんだし、一個ぐらいはまともなのが届く事を期待しよう。


 とりあえず今は、このコンビニエリアに商品を埋めないといけない。

 日本円の支給も開始しなければならない。

 この領地では原則、日本円のみの利用しか認めないつもりだ。


 商会でも日本円で売買してもらい、溜まった日本円を王国貨幣で買い上げるシステムにする予定だ。


 支給する日本円は完全に定額にする。

 赤子だろうと老人だろうと、たとえ仕事をさぼっていようが、貰える金額は一律。

 能力によって報酬を分けるには、正しく人の能力を把握しなければならない。


 そして正しく人の能力を把握できる人材など、ここには存在しない。だから全てを平等にする。


 俺はあいつより頑張っているのに貰える額が一緒なのは納得いかない。という不満は出るだろうが、俺はあいつより頑張っているのに貰える額が少ない。という不満にはならない。

 どっちの不満がより抑え込みやすいかを考えれば、断然、前者であろう。

 たとえ能力によって差を付けたとしても、結局、自分より多い報酬を貰っている奴がいれば不満は溜まる。


 だったら頑張らねえって言うのならそれでも良い。


 むしろそっちの方が良いぐらいまである。

 人の二倍働く人間が居たら、どうしてもその人の居る場所は、人の二倍働く人間が必要な仕組みになってしまう。

 そしてその二倍働く人間が居なくなった途端、その仕組みは破綻してしまう。


 それが一つの会社や仲間内などの小さな集まりであればそれも構わないだろう。

 影響も少ないし挽回も容易い。

 最悪そこが潰れても多勢には影響が無い。


 しかし、村の運営で破綻などあってはならない。


 特にこんな危険な場所にある僻地、防衛の一部が破綻しただけでも村人が全滅する可能性だってある。

 当然、皆が皆、やる気をなくして誰もまともに働かなくなる恐れはある。

 だがそれだって別に構いやしない。


 村人全員がその暮らしで良いと言うのなら、それでも問題ないだろう。


 オレは別に、この村を発展させて人々の暮らしを良くさせようだ等という考えは持っちゃいない。

 飢えず、病まず、ある程度の娯楽があって、ただただ普通に暮らせていければ、それで良いじゃないか。

 もちろん、村人がそれがどうしても嫌だというのなら、その時には方針を変える必要がある。


 あれだけ発展していた前世でも、理想とされる共産主義に辿り着けた国家は存在しない。


 とはいえ、国のような大きな組織ではなく、ただの農村だ。

 今のところは村人からの不満もほとんど無い。

 むしろかなり協力的ですらある。


 まあ、これまでは生きるか死ぬかって環境で生きて来た人達だ、普通に生きていけるだけでも満足なのかもしれない。

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