第18階層
「フッ、……またつまらぬものを斬ってしまった」
いやこれ、斬っちゃダメな奴だから!
そうしてボルヴェイン兄上が持って帰って来たダンジョンコア、きれいに真っ二つな状態。
「いやあ、すまんすまん、勢いが突き過ぎちまってな!」
この兄上だとオーバーキルだったか……
まっ、真っ二つだろうとダンジョンコアには違いあるめえ。
とりあえず、それを持って帰ってハーキャットさんの前に置く。
するとハーキャットさん、ヤレヤレといった感じのモーションアクションをする。
えっ、ダメなの?
せめてお米だけでも、なんとかなりませんかね?
暫く考え込むアクションモーションのハーキャットさん、そのうち頭の上にピコン! とビックリマークが表示される。
どうやら何かを思いついた模様。
ハーキャットさん、目の前にあった真っ二つのダンジョンコアを手にして大きく振りかぶる。
それをプラント農場のある扉に向かってブン投げた。
また、なんて事を……
まあそれで、あそこが強化されるなら言う事は無いがね。
と思っていたら、ダンジョンコアが壁に当たった瞬間、まるで煙幕玉が爆発したかのように、煙が壁一面に広がっていく。
その煙が晴れていった後、そこには、何も残っていなかった。
そこにあったはずの壁が消滅…………いや、よく見るとガラスのような透明な素材になって……いや待って!
扉の向こうにあった、植物園が見当たらない。
その透明なガラスの先は――――前世のコンビニにあったような陳列棚と、レジカウンターまでもがあるショップみたいな部屋になっていた。
あれ? オレのプラント農園ちゃんはどこいったの?
あの扉の先にあったはずだよね?
どこにも見当たらないんですが。
まあ、ダンジョンの地形が変わるなんて良くある事かもしれないが……いや、待って!
まだ収穫もしていないのよ? 戻してください!
ひどいよハーキャットさん!
いくら壊れたダンジョンコアを持って来たからって言っても!
お預けなんて酷すぎる!!
「良かったじゃないですか、これで商会を呼べますね」
いや、そうだけど、そうなんだけど!
君達はアレ、食べて無いからそんな事を言えるんだよ!
せめて種だけでも回収しておくんだった……今度は壊れていないダンジョンコアを獲って来ないと……
なんか順調にダンジョンに調教されてないか? オレ。
「と、言いますか、なぜボルヴェイン兄上がコアを真っ二つにするのを止められなかったのですか?」
そうすれば、この上で農場だって残ったかもしれないのに。
オレは護衛の一人で、兄上に付いて行ったはずのブロスにそう問いかける。
「いえ実は、あのお方、一人で行ってしまわれたので……」
ブロスの話では、勢いがつきすぎてお前らまで斬ってしまうから、付いて来ない方が良いぞと言われたらしい。
どんだけ暴れたいのよ?
窮屈な騎士団に居て鬱憤でも溜まっていたのだろうか?
「そう言いながら、ゴブリンを微塵切りにされると怖くて近寄れませんよ」
そっか~、みじん切りにしていたか……ただのゴブリンなのに?
付いていかなくて正解だったかもしれないな。
前世知識でいっぱい必殺技を教え込んでいたから、実践で試していたのだろう。
「ああ、あと、他のダンジョンにも向かっていましたから止めた方が良いですよ。今度は真っ二つじゃなくて粉々になっているかもしれません」
いや、止めろよ。
なんで放置してきたの?
ちゃんと騎士団に返品しといてよ!
オレは慌ててブロスに伝令を頼む。
「すいません、私の言う事は聞きそうにありませんでしたので……」
行きたくなさそうな顔でそう言う。
「……それは、私が直接言っても無理そうな感じですか?」
オレがそう問うとそっと目を反らすブロス。
うん、確かに表に出しちゃダメだったな、あのお方。
騎士団の人からも、外に出すのは止めた方が良いと言われたんだよな。
その時は猛獣でもあるまいし、と笑い飛ばしたんだが……ちゃんと人の忠告は聞いとくべきだったか。
とりあえず、ブロスを拝み倒して、見てるだけでも良いからと、兄上に付いていてもらう事にした。
出来れば穏便に騎士団に送り届けて欲しい。
何があっても出奔だけは止めないと。
自由に好き勝手させていると、そのうち、億単位の損害賠償請求書が届いて来そうで怖い。
父上は、アレをどうやって騎士団に押し込んだんだろう?
手紙でも出してみるか?
なんで猛獣を解き放ったんだって怒られるかもしれん。
「凄いですよコレ、自動で扉が開きますし、通った後も自動で閉まります」
「おっ、ほんとだ。通った後に勝手に閉まるのは良くある事だが、自動で開くのはあんまねえよな」
オレ達二人の悩みを他所に、ファリスとアイサムはコンビニの自動ドアで遊んでいる。
というか、自動ドアまで再現出来ているのか?
レジはどうなっているんだろう。
とりあえず兄上の事は後回しにして、ダンジョンに新たに出来たコンビニエリアの探索を行う事にした。
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