第16階層

 さて、支店を作るとは言っていたが、土地建物はこっちで用意しなければならないよな。


 オレは村に戻ると早速立地を確認する。

 そもそも地上に店を作っても人が集まるだろうか?

 仕事中以外は皆、ダンジョンで暮らしている。


 家族連れはまだ広い地下室を使っている奴も居るが、それだって危険な地上で買い物をする必要も無い。


 ならば、ダンジョンの内部にショップを作った方が良い。

 カプセルホテルの一部を改装し、各部屋を倉庫にして、その前にカウンターでも設置すれば簡単なショップにならないだろうか?

 とりあえずダメ元で、ハーキャットさんにショップエリアの作成を強請ってみるか。


 そう思い、ハーキャットさんの目の間で身振り手振りを使って、部屋が欲しいというような事を伝えてみる。

 するとハーキャットさんの頭の上に、アニメキャラが丸いボールを掲げているスタンプが表示される。

 なるほど、ダンジョンを拡張したければ、この前みたいにダンジョンコアを持って来いって事ですか。


 でもねハーキャットさん、今、うちら金欠なんだわ。そんな、甲斐性がないですねぇ、なんてスタンプを出されても無い袖は振れない。


 資金提供先の当ても潰れて、ダンジョンコアを買えそうなお金がありません。

 どこか潰しても良いダンジョンに行って、コアを奪取してくるしか手が無い。

 全てのダンジョンが地元の人達に喜ばれている訳でも無い。


 ダンジョンの所為で土地が広げられなかったり、危険すぎて閉鎖されていたり、領主がダンジョン嫌いで放置されている場所もある。


 とはいえ、うちの領は冒険者が居ないんだよね。

 冒険者ギルドを作るかって打診された事もあるんだが、どこの馬の骨かもわからない自由人に、村の護衛や必需品の調達を任せるなんて不安しかない。

 そこら辺はギルドがうまく調整します。って言われてもなあ。


 うまく調整が出来ていたら、潰れる村など無いだろって話だ。


 そう言うのは例外だとは言うが、そういう例外に対応出来ないのでは意味がない。

 例外だろうがなんだろうが、潰れたら困るんですよ。

 それに自分の領地に、直接の命令系統が届かない暴力組織が別にあるのも怖い。


 せめて、武器等はこちらで管理させて欲しいと言っても聞かないだろうし。


 冒険者が町の人に危害を加えた、冒険者どうして喧嘩して被害が拡大した。という話はよく聞く。

 それどころか、街の衛兵と対立して互いに戦闘を始めた例もある。

 もちろん、冒険者のおかげで町が守られたという話も大いにあるし、高ランクの冒険者が在中してくれれば安心感もできる。


 ただなあ、うちの土地にそんな冒険者は来てくれそうにないんだよね。

 なにせ世界の果てだし。それに共産体制だから、そこだけ資本主義にしたら軋轢も生まれそう。


 そう考え事をしているとき、ふと見ると、ハーキャットさんが両手で壁を指さすモーションアクションをしていた。

 その壁には今までなかった扉が出現していた。

 お、もしかして部屋を前払いしてくれたのか?


 その扉を開けてみる。なにやら植物がいっぱい生えている部屋に出た。


 なんで植物?

 いくつかの四角い区切りの中に種類ごとに分けられて植物が生えている。

 オレはそのうちの一つに視線を吸い寄せられる。


 もしかしてコレ…………水田?


 この世界にも米に似た穀物は存在していた。

 しかし、非常に栽培が難しい。

 なにせ米には水田が必要だ。


 そして水田には水が必要だ。


 当たり前だ、そう当たり前なんだが、この地面に水を溜めると言うのが、どれほど難しい事か。

 川に近すぎれば、大雨の時に氾濫して水と一緒に流される。

 川から遠くなると、水路が必要だが、水は高い所から低い所へしか流れない。


 なお、この辺りの平地は、高くなる場所もあれば低くなる場所もあり、前世の日本の様に海に向かってなだらかに斜面になっている場所ではない。


 さらにだ、水が偏らないよう、平に地面を掘ってならさなければならない。

 これをどこでもやってのけるって、どれだけ技術力が高いのよ昔の日本人。

 とても真似が出来そうにない。


 さらに、さらにだ、川の中にもモンスターが存在している。


 当然肉食。しかも、ピラニアが可愛く思えるレベル。

 なにせ地上の人間にも、ウォーターガンで攻撃してくる。

 そんなモンスターが水路を伝ってやって来るし、水田の中でも繁殖する。


 それらの問題をクリアしてもさらに問題がある。


 前にも言ったが、改良されていない稲は、実ると地面に落ちる。

 そして落ちた先は沼地だ。

 クッソ収穫しずれえ……


 そうやって苦労して作った米は、前世のような真っ白なお米じゃない。


 まあ、改良されてないので、小麦と一緒で不味いんですわ。

 それがだ、それが、何の苦労もせずに目の前にある。

 しかも「実るほど頭を垂れる稲穂かな」と言っても良いほど、実った穂が垂れ下がっている。


 垂れ下がっているのに、地面に落ちていない。


 見た目も、こっちの世界の小粒な実とは比べ物にならないほど大きい。

 そう、前世の米、改良済みのお米様、世界に誇る、あの、高品質が売りの日本米。

 それが目の前にある。


 手の届く距離にあるのだ!


 思わず、どこのサッカー選手かと言うほど、両膝を突いて両手を挙げて、ガッツポーズを決めてしまったほど感動した。

 ハーキャットさん、あんたはぁ、なんて、とんでもない物を用意してくれたんやぁ。

 ショップエリア? そんなの後回しだ!


 このプラント農場を強化するのが先に決まっている!


 何が何でも、ダンジョンコアを、ダンジョンコアを奪取せねばならぬ!!


「旦那は何をあんなに感動しているんだ?」

「さあ? なんか凄い物じゃないんですかね。なんかまたやらされそうでヤですねえ」

「後ろでほくそ笑んでいる、ハーキャット様にすっかり乗せられていますしなぁ」

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