第15階層 イースチルドレン
ガーネットという少女は、そんなイースチルドレンの中の一人だ。
彼女は穀物中心ながらも、オレの言う、バランスの良い食事とやらを実践し、肉・野菜も満遍なく食べて成長した。
結果、体の発育は遅れながらも、知力、体力共に他の子に劣らない成長を遂げた。
どうも、食べれば食べるるほど効果が高い、という事もなく、どちらも一定以上摂取しておけば良い様だった。
やはり、どこの世界、何時の時代であったとしても、バランスの良い食事が体に一番良いと言う事だ。
この娘は、オレが行くといつでもすっ飛んで来て、異世界の話を聞かせてとせがんで来る。
最初の頃は、素直でなんでも言う事を聞いて、可愛いざかりだったので、ついつい構ってしまっていた。
それが成長するにつれ、増長しだしたのか、自分達はイース様に選ばれた民なのだとか言い出して、他の人間を見下すようになっていった。
色々、注意はしてみたのだが、あまり効果は無く、むしろ言えば言うほど意固地になっていく。
周りの大人達からは、もっとビシッと言わないからだ、とか言われるんだが、実はオレ、この世界の言葉は敬語しか話せない。
最初に思い出した前世知識は、実は日本語なのである。
周りの人達が何か話していて、アレ、何かおかしいぞ、どこの国の言葉? 等と思った時に、ふと前世の言葉に関する記憶が蘇った。
その後も貴族生活であり、学ぶ言葉は基本、丁寧な言葉遣いだ。
普通の子供はそれでも、どっからか拾ってくるんだろうが、オレはかけらも興味がない。
さらに、どうしてもここは外国という認識が先行して、日本人らしく、外国では模範的な行動をするというのに囚われてしまっていた。
その結果、相手が平民だろうと子供だろうと――――スラムの浮浪児だろうと、同じ丁寧な態度で接する事が身に付いていたのだった。
周りからは色々言われたよ?
そんな対応では貴族として侮られるやなんやらと。
でも、身に付いたものは覆せない。
という訳なんで、厳しく叱ろうにも、叱る方法が分からない。
そのうちガーネットさんは、自分はオレの一番のお気に入りなんだから、他の奴らは全員自分に従うのが当然だと言い出す。
下の子達をいじめるし、気に入らない奴がいれば暴力だってふるう。
いつの間にか出来上がっていた孤児達のカースト制度。
あれだ、令嬢じゃないんだけども、まさしく悪役令嬢って言葉がぴったりなお方になっていた。
大丈夫かウドゥ、そんなんに任せて?
というか、そのガーネットさんがトップになったのかあ……寄付を貰いに行きづらくなったなあ。
「ククク、それだけでも、あいつをトップに据えた甲斐があったってもんだ」
そんな理由で決めていいのかウドゥ?
「それだけじゃねえ、アイツはな、人に命令が出来る人物だ」
「命令? それは誰でも出来るものではありませんか」
分かっちゃいねえな。と、ウドゥは続ける。
本当の意味で人に命令できる奴ぁ実はそんなに多くはない。
ただ誰かに何かをやれって言っても、その誰かが動かないのであれば、命令したとは言えない。
単に吠えてるだけの小者でしかない。
「人に命令するってえのは、人を動かすって事だ。そして人を動かすって事は簡単にはいかねえ。特にうちのようなゴロツキ連中はな」
そう言って以下のように続ける。
人に命令するには大きく分けて3つの要素が重要になる。
その3つとは地位・正当性・恐怖だ。
地位とは単純なもんだ、人は伝統的に上からの命令に従う様に教育されている。
立場が上になるってだけで、従う人間はある程度は出てくる。
次に正当性だ。
それがやって当然の事、と思わせればそいつは動く。
正義感の強い奴に、これが正義だと説けば、人殺しだって平気でやる。
そして一番簡単で効果の高いのが恐怖だ。
命令に従わなければどうなるか思い知らせれば良い。
見せしめって奴だな。
おっと、コイツを否定させはしねえぜ。
何せ、どこでも誰でもやっている事だ。
人殺しをすれば罰として、さらし首にされる。
それだって、さらし首という恐怖をもって、人殺しを無くさせようとしている訳だ。
そもそも罪を犯せば罰がある。
て~のがおかしな話だ。
本当に裁かれるべき奴は、いくらでものさばってやがるんだぜ。
なら罰ってなんだよって話だ。
それは単純な話だ。
罰があるから罪を犯すなって事だろ。
それが恐怖を用いた命令以外のなんだってんだよ。
それにな、失う物の少ないゴロツキに、立場も正当性も通用しねえ。
恐怖こそが従わせる最善なものになる。
だから俺はそれを多用してきた。
許す許さないって問題じゃねえんだよ。
オレが命令者であり続けるための手段だったんだよ。
「ガーネットさんはそこまで非情にはなれないと思いますが」
「暴力だけが恐怖じゃねえんだよ」
おめえさんがいじめって言っている事もそうだ。
私怨なんかじゃねえ、あいつは意図的に、自分に従うように教育をしていやがる。
だからこそ、あんなんでも、イースチルドレンの連中は付き従っている。
「それに奴には正当性を説く能力にも秀でている。さらに立場を与えりゃどうなるか」
面白くなると思わねえか? などと良い笑顔で答える。
「それに国一番の商会のトップだ、おめえさんだって迎え入れるのに障害が減るだろう」
「なぜ私がガーネットさんを?」
「向こうがそう言ってたぜ」
そう言って悪い笑顔を湛える。
こいつ、確信犯だな。
クソッ、もうあそこ行けねえわ。
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