第11階層 リニアモンスターカ―(誤字ではない)

 リニアモーターカー、それは磁力の力で車体を浮かし、磁力の力で推進する。


 地面との接触が無い為、高速で移動する事が出来る。

 さながら超低空を飛ぶ、飛行機のごとき。

 当然、モンスターが走るのよりも圧倒的に早い。


 窓から見える景色は唯の壁しかないが、それが流れるスピードがかなり速い。


 なお、うちの護衛達は走り出した途端、隅の方でブルブル震えている。

 まあ怖いわな。

 こんな高速で走る物などに乗った事は無いだろうし。


「旦那は怖くねえんですか!?」


 もうここまで来たら、どうしようもないしな。

 この速度でぶつかれば、どこに居てもほとんど変わらないから安心しろ。


「全然安心できないっすよ!」


 とまあ、最初はブルブル震えていたのだが、さすがに数十分も走り続けているとだんだん慣れてくる。

 ようやく自分の仕事を思い出したのか、恐る恐る窓際に行って外を確かめたり、先頭の方まで行って状況を確認したりしだす。

 この車体は、いくつかの車両が連結している訳ではなく、一本の細長いただの空間があるだけ。


 座席なんて、もちろんない。


 ある意味、加工しやすい型ではある。

 結構な長さがあるので、仕切りでも作れば列車のような運用も可能だろう。

 問題は出入り口だな。


 胴体に窓はあるものの、出入りが出来そうな扉が存在しない。


 出入り口が先頭と後方の2か所しかないと思われる。

 後方にもモンスターの顔のようなモノがある。

 多分、終着駅に着くとこっちが開くのだろう。


「消化されたりしないっすかねえ」


 消化か……人間を消化するつもりならとっくにやっているだろう。

 しかし、燃料はいるはず。

 やはり定番はコレか。


 ペッペケペ~と懐から魔石を取り出す。


 貴族の嗜みとして、魔石は常に懐に入れているのだ。

 他所で魔道具を使うとしても、エネルギーは持参するのがマナーなのである。

 それをソッと足元に置いてみる。


 ゆっくりと溶け込むように消えていったかと思うと、ヴっヴっヴ~という声が前後から聞こえた。


 どうやら喜んで頂けた模様。

 しかし、この胴体を維持するとなると、かなりの量が必要になりそうだ。

 魔石は買うとなると意外と高いんだよなあ。


 ダンジョンコアで全財産スッたから、寄付のお願いに行かないといけない。

 また、暗殺者を仕向けられたらどうしよう……ほんと、リニアは金食い虫だぜ。


「せめてイース様は乗らずに残った方が良かったのでは?」


 何を言っているんですか?

 目の前に彼のねこば・・ケフンケフン、モンスター列車があるんだぜ、乗らない訳にはいかめえ。

 つ~かおめえら、オレが乗り込まなけりゃ、入っていかなかっただろうに。


 大阪から東京までリニアでおよそ1時間ちょいだと記憶にある。


 もう1時間は過ぎているだろう。

 これが王都までの直通路線だとすれば、そろそろ着いても良い頃だ。

 …………問題は、どこに出るかだな。


 いやな予感がする。


 やがて速度が落ちていき、ゆっくりと停車する。

 思った通り、後方部分の口が開く。

 そこから歩いて暫く行くと、何やら見慣れた場所に出た。


 …………だろうと思ったよ。

 そこは、王都にあるクライセス家の屋敷にある地下室。

 今は誰も使っていないただの書庫になっている場所。


 その壁の一部が吹き飛んでこの通路と繋がっていた。


 なんで遠く離れたうちの屋敷の場所を知っているんだろうな。

 もしかしてオレ、ダンジョンにストーカーされている?

 つ~かコレ、ヤバくね?


 地下にトンネルを掘って王都から出入り自由とか。


 検問はどうしたって話。

 バレたら確実に逮捕必須。

 不可抗力でした。は、もちろん通用しないよな?


 完全にうちの領地と屋敷が繋がっているんだ、これで関係ありませんは通用しないだろう。

 ダンジョンに餌食わしたら出来ました。は、誰が信用するんだって話。

 …………仕方ない、また、やんごとなきお方を巻き込むか。


 あのお方なら…………嬉々としてお許しが頂けるに違いない。


 王都の治安? いやいや、そんな事よりコレすげえじゃん。とか言って。

 問題はだ、王子様が良くても王様は許してくれない。

 そして王子様より王様の方が権限が上だ。


 だが、逆に考えよう、王様が許してくれたらそれはもう、何も問題が無いという事だ。


 そして彼のお方は、王位継承権第一位。

 順当にいけば、次の王様なのである。

 王都の治安を、そんな事で済ましてしまいそうなほど問題があるお方だが、そこは今更の話。


 彼本人に人望が無くても、やりようはある。


 政治自体には興味が無さそうだから、権力を議会などに分散させれば貴族にも旨味があろう。

 そうなると人望はむしろ無い方が進めやすい。

 王から権力を奪うとは何事だ、などと怒鳴りだす人も出てこないだろうし。


 象徴君主制まで持って行くのは無理だろうが、立件君主制ぐらいまでには持っていけるかもしれない。


 とにかく、一瞬でも良いから王様になってもらって、この通路を認知して貰おう。

 最悪は領地にこもってりゃ、こっちはこっちで勝手になんとかするだろう。

 そうと決まれば、早速手を打たないとな。


 この通路とリニアのおかげで王都との行き来はしやすくなった、裏工作はやり易くなるはずだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 その時のとある王宮での出来事。


 ――ブルブルッ


「今、何か悪寒が走ったんだけど、風邪かな?」

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