第12階層

 あれから何度か走らせてみたリニアモンスターカー。

 燃料はやはり必要な様で、その燃料に大量の魔石が必要となる。


 魔石とは、モンスターの心臓の中にある石の様な物で、魔力と呼ばれる、魔法の元となるエネルギーを蓄えている物だ。

 この魔石を車体の床に置いておけば、いつの間にか吸収されている。

 おなかが空くと、車体の前後の顔部分が不機嫌そうな感じなる。


 魔石を与えると、だんだん笑顔になっていく。


 途中で止まられても困るので、常に笑顔を保つ状態を維持する必要がある。

 ちなみに、走らせていなくても腹は減るようで、ほっとくだけでも不機嫌になっていく。

 これが暴れ出したら、どうなるか分かった物じゃないので、使ってなくても魔石は与え続けなければならない。


 なので、魔石の収集が目下の悩み事である。


「村の土木チームにもっとモンスター狩らせましょうか?」

「危険じゃありませんか?」


 彼らはただの土木工事員でしょう?


「あ~、大丈夫っすよ、穴掘りは得意っすからね」

「穴が何か関係あるのですか?」


 どうやら落とし穴などの罠を使って、モンスターを狩っているんだと。


 穴を掘って、壊れやすい木材で蓋をして、土でもかぶせときゃ、知能の低いモンスターは入れ食い状態らしい。

 落とし穴、意外と万能だからなあ。

 しかもモンスター、人間を見ると必ずと言って良いほど襲い掛かって来る。


 その前に落とし穴を設置しておけば、簡単に落とす事が出来る。


 うちの土木工事員達は優秀だし。

 地下室作りも、どこよりも実績がある。

 あっという間に穴も掘るし、埋めるのだって得意だ。


 いずれこつら使って、トンネル掘って鉄道を通そうかと思っていたんだが、それもリニアモンスターカーのおかげで必要なくなった。


「それじゃ、お願いします」

「任しといてくだせえ!」


 その日から、せっせせっせと、近場のモンスターを狩ってはリフトでダンジョンに運ぶ毎日。


 おかわりの寄付も頂けて、順調にダンジョンも成長している。

 ただの土壁だったモノが、硬質なセラミックのような壁に徐々に変わっていく。

 暗闇で松明が必要だった内部も、天井から淡い光がさして、常に明るい状態になる。


 そのうち、壁に蜂の巣のような穴が幾つか出来上がっていた。


 なんだコレ、って思っていたら、ハーキャットさんの吹き出しに布団を抱きしめて眠るアニメキャラのスタンプが表示される。


 なるほど、この穴にマットを敷いて寝れば良いのか。

 地下室より安全なら、一考の価値ありだな。

 しかし、どこを目指しているんだこのダンジョン? まるで宇宙船の内部みたいな雰囲気だ。


 ダンジョンの中は、暑すぎる事もなく、寒くて凍える事もない。


 ダンジョン内部は異世界だと言うが、まさしくそのとおり。

 そのうち、村人達がこぞってそこで寝るようになって来た。

 地下室、実はジメジメしてカビも生えて、決して快適では無いし虫だって湧く。


 だがこのカプセルホテル。


 すごく快適である。

 カビなんて生えないし、虫だって沸かない。

 同じ地下だとは到底思えない。


 もうここに居住を移しても良いかもしれない。


「大丈夫ですかねえ……モンスターの腹の中で過ごしている様なもんですが……」

「今のところ、危害を加える素振りはありませんけど、ダンジョンは油断した者から死ぬとも言われますしね」

「じゃ、お二人は良いぜ、俺が一人で護衛すっから」


 護衛のうちの一人、アイサムがそう言うと残りのファリスとブロスは慌てて取り繕う。


 まあ、こんな快適な空間を知って元の穴倉生活には戻りたくは無いわな。

 ここも穴倉ではあるが、同じ穴倉でも高級ホテルと民宿ぐらいの違いがある。

 人は贅沢を知ると普通には戻れないのだよ。


 後は換気システムが欲しいな。


 ここでバーベキューをすると、どうしても煙がこもる。

 天井吹き抜けのハーキャットさんが居る部屋でも、風の流れがないので、どうしても地面にこもる部分がある。

 いや、調理器具作ってくれるのは良いんだけども。


 ハーキャットさんは人の手が加えられたモノを好む。


 なので、食事も唯の肉塊よりも、煮たり、焼いたりしたモノが欲しいと強請られる。

 地上で作って持って来るのも面倒になってきたので、ここで調理をしていると、なにやら、色々な小物が出来上がっていた。

 地面の一部が溶岩になって、その上に平らな石がせりあがっていたり、壁にライオンの彫刻が出来てて、そこから水が流れだしていたり。


 あと、こっそりとトイレも出来てた。さすがに温水洗浄便座ではないが。


 なんとかハーキャットさんの前で、身振り手振りで、空調が欲しいと言う様な事を伝えてみる。

 何やら考え込んでいたハーキャットさん、暫くするとピコン! と頭の上にビックリマークが表示される。

 お、分かってくれたか。


 と、突然地面にスライムが現れた。


 えっ、ナニコレ、倒すの?

 それ倒して、みたいなアニメキャラのスタンプがハーキャットさんの頭上に表示される。

 スライムを倒してみると、宝箱がおちた。


 それを開くと――――真っ黒な液体を湛えたビンが一本。ポツンと入っていた。


 …………とりあえず肉を焼いてみた。

 そしてその液体を皿に満たし――――うめえっ! 黄金の例の奴や!

 こういうので良いんだよ!


 焼いてタレを付けるだけ。そうだよ、シンプルイズベストなんだよ!


 ちょっと錯乱してしまった。

 なにせこの世界、肉料理が中心なのは良いが、進展しすぎて、もうこれ肉じゃねえ、なんて料理ばかりだ。

 この世界で肉をただ焼いて食べると言うのは、前世で言えば小麦をそのまま焼いて食べるレベル。


 そういう訳なんで、こういう、ただ焼いた肉に付けるタレは発展していない。

 調味料自体は色々な種類があるのだが、どれもこれも凝りすぎてシンプルに浸けて食べるような代物じゃない。

 やっぱ選ばれるのには、それなりの理由があるのですよ。


 隣で、自分も自分もってハーキャットさんが大口を開けている。


 ちょっとそれ止めてくんない?

 すぐ隣でそれをやられると怖いんだよ。

 口の中のブラックホールに吸い込まれそうで。


 とりあえずそのブラックホールに、タレを付けた肉を放り込んでやる。

 頬をおさえて震えるようなモーションアクションを起こすハーキャットさん。

 とても美味しかったらしい。


 よしおめえら!

 今日はバーベキュー大会だ!

 ハーキャットさん、もっとスライムをお願いしやす!


 その日から、毎週、祭り(スポーツ大会)の後は、ハーキャットさんちでバーベキューが定番になった。


 なお、空調は王都で魔道具を買って来た。また、金が減った、寄付を……

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