第9階層 アクレイシス・カーラード
「王子……さすがに怒られませんかね?」
「大丈夫、大丈夫、どうせ使い道が無いんだし」
我らが盟友、イース・クライセスがダンジョンコアが欲しいと言って来た。
これまで堅実だった彼が、ダンジョン等という博打に手を出すなんて興味がある。
なので、宝物庫にあった一番大きなダンジョンコアを持って行かせた。
かなり古いもので、それに含まれる魔力は膨大すぎて、魔道具のエネルギーとしては危険すぎて使えないモノ。
いったいアレで何をするのか。
持って行った執事がそう説明はしたそうだが、魔道具に使うのではないから大丈夫だと。
まさか、あのコアでダンジョンを生み出そうとしてやしないだろうな?
あんな禍々しい物で生み出されたダンジョンなんて、何が出来るか分かった物じゃない。
まっ、あんな地方でどんな物が出来ようと、知ったこっちゃねえか!
「偶には彼の驚く顔を見てみたいしね!」
「性格が捻くれてますなあ」
「ん、何か言ったかい?」
「良い性格をされていると」
もっとオブラートに包もうよ、あんま変わってないよソレ。
しかし、どっちもどっちですなあ。と小さく呟いている。
どういう意味なん? えっ、性格が良く似ている。
いやいや、そんなはずないでしょ?
「それにしても、ンま~いね、このケーキ。もっと持って来てよ」
「王子の分はそれで終わりです」
えっ、なんで?
私が彼から貰ったんだよ?
まだまだ大量にあったよね?
「あとは、王宮で消費されます」
「だから、なんでだよ?」
「国の物は王子の物、王子の物は国の物。宝物庫から王子が自由に国の宝を取り出せるのと同じように、国は王子の物を自由に扱う権限があるのですよ」
えっ、マジで?
いや、そんな話は初めて聞いたよ?
というか矛盾していない?
まったく彼がもっと小麦を作ってくれれば、こんな事にもならないのに。
彼が懇意にしている貴族にも栽培方法を伝えているとは言うが、全然、こっちまで回って来ないよ。
あと、栽培以外の方法を教えるのは止めてくれないかな。
なにあの共産主義社会って。
全ての財産を共有し、平等で貧富のない世界を構築するとか。
意味が分からないよ。
人は能力によって評価され、正当な報酬を手にするのが当然でしょう。
その評価が妥当かどうかは別として。
村人全員で得たものを、村人全員へ平等に分配する?
食事も住処も医療さえも。
やってもやらなくても一緒なら、皆、やる気を無くすと思うんだけどなあ。
それでうまく行くはずがないのに、なぜかやっていけている不思議。
確かに、危険な彼の地では、その方法で全てを管理しきっていた方が良いのかもしれない。
ただ、うまくやれているのは彼だからこそじゃないかと思っている。
他の貴族が真似しだすのは勘弁。
そのうち、政策を巡って対峙したりしないだろうか?
実際、イース主義を基幹とした領地経営をしようと言いだす貴族も出てきている。
とはいえ、二男、三男という、嫡男以外の平等に分配されない可能性ある者が中心だけどね。
そりゃ恵まれた者は、それを手放す必要のある共産主義なんて反対だろうよ。
ただねえ、その二男、三男が彼に傾倒し、広大な平地で穀物栽培を始め……やがて、それが領地になる。
そこでは当然、彼と同じ政策が行われるだろう。
さらにこの穀物、とある噂が付きまとう。
不老長寿の妙薬ではないかと。
穀物を主食としているクライセス家は、歳をとっても若く瑞々しい。
それを真似て我が父上、この国の国王様も食べ始め……なにやら若返っているような気配がする。
万が一、そう万が一だ、そのような効果があるとすれば?
穀物を持つ者と持たざる者、一気に形勢が逆転する。
これまで価値の無かった広大な平地を持つものが強くなり、今までの世襲貴族は没落する。
その上、この効果を知って我ら王族が独占していた、等と吹聴されたら……
「うゎ、こわっ!」
これはさっさと逃げ出した方が吉と見た。
幸いと言って良いのかどうかは分からないが、長男でも王位は継がなくても良さそう。
後は優秀な弟達に任せて、私はどこかへ雲隠れするとしよう。
この王都だってどうなるか分かったものじゃない。
経済の中心にあるからこそ強いのだ。
それが無くなれば立地の悪いこんな場所、あっという間に没落必須。
なにせ王都の周りには広大な平地はない。
天然の城壁と、険しい山岳に囲まれて防衛力が高く歴史があるだけ。
「ほんと、その対策を考える弟達に同情するよ」
「何をおっしゃいますか、次の王はあなたでしょうに」
「ハッハッハ、そんなの無理に決まっているじゃないか」
評判だけじゃないんだよ、私が王になれない理由は。
私の胸には、とあるものが付いている。
これが付いている限り、私は決して王には、なれないんだよ。
「仮に私が王となったら、尻尾を振って彼に付くね! そうなるとこの国はもう終わりだよ?」
「………………言葉も出ないとは、この事でしょうか」
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