第4階層
オレは恐る恐る、その開いたブラックホールに焼き肉を放り込む。
口の中に入ったとたん、まるでマジックバックに入れた時の様にスッと焼き肉が消える。
しばらくモゴモゴと咀嚼するアクションモーションを行っていたかと思うと、カッ! と目を見開く。
――ポワポワポワ~
という音と共に、何かが昇天しているアニメキャラのスタンプが出る。
どうやら美味しかった模様。
というかその咀嚼するアクション要る?
歯、無かったよね?
お次に、うちの領地で採れた一番良い所を集めて作ったパンケーキを差し出す。
今のところのご自慢の一品だ。
肉じゃないけど、どうかね?
パンケーキを口の中に放り込むと、唸るような仕草をしたかと思うと、クルクル回りだす。
なにやら喜びのモーションアクションをしている模様。
肉じゃなくても良いんだ……
ふと思って、腰に差した魔法が掛かった短剣を口の中に放り込む。
目からピカーッ! と光線を発するモーションアクションをしたかと思うと、
『うまいぞぉ~~!!』
というアニメキャラのスタンプが、バァン! と強調バージョンで表示される。
なんでも飲み込むなコイツ、さすがダンジョン。
これなら人間を餌にしなくても別に良いんじゃないだろうか?
ただ、欲深い存在である人間が、ダンジョンにとって呼び込み安い存在であっただけの事。
ならば、こちらから別の食事を用意してはどうか。
ダンジョン養殖……試してみようか?
そうと決まれば、色々、ダンジョンの食糧になりそうなものを用意せねば。
「ファリスさん、これから言う物を用意してくれませんか。ん? ファリスさん?」
近くに居た、護衛の少女に問いかけたのだが返事がない。
小柄でスマートな女性。
まだ15歳ぐらいの、少女ともいえる見た目で、その昔、オレに暗殺者を仕向けて来たギルドより引き抜いた人物だ。
「あ、すいません、少し考え事をしていました。――ちょっと、この村に来た時の事を思い出していました」
なんで唐突に?
この村に来た時の事かぁ……
まあ、あの時はやりすぎた感はある。
いきなり普通に住んでる人達を監獄ベースに切り替えたんだから。
実はこの村は、ものすごく危険な場所に作られている。
だだっ広い草原にポツンとある村。
周りには肥沃な大地。
前世の記憶の中であれば、国同士が取り合うほどの好物件。
なのだが、この世界では最悪の部類に入る。
なにせここには、人を襲うモンスターが居る。
軽トラほどの巨体を誇るイノシシに、空飛ぶトカゲ。
鋭い鎌をもった、ヒグマよりでかいサイズのカマキリ虫。
蟻ですら、大型犬サイズである。
見渡しの良い草原に居るサルなんて格好の餌でしかない。
ウサギですら人間より早く走るんだ、隠れる場所も無いここじゃ、狙われたらまず逃げ切れない。
そんな場所なんで普通の人は寄り付かない。
ならばどうするか? はい、強制入植であります。
盗賊や山賊などの、あんたら死刑ね。みたいな奴らをかき集めてぶち込んでいる。
作っている農作物はモンスターが見向きもしない物なので、たとえ村人が全滅したとしても農作物は残る。
全滅したら、新しく人を送り込めばそれで済む。
ご時世がご時世なだけあり、そういう悪人も絶える事は無い。
盗賊達もその場で首を刎ねられるよりはマシだと思ってここへ来る。
まあなんだ、まともな人間はここには居ない訳だ。
普通に村運営してもこれまでの二の舞いなので、いっその事と思い、ここを収容施設に変える事にした。
地上に作る建物は丈夫な石造りの物だけとし、生活の場を地面に埋める事にし、さらにあちこちに避難用の穴倉も作った。
地下で生活するって事は不健康になりかねないので、祭りと称して、7日に一度は大運動会をする事を決めた。
サッカーというほど厳密なルールは無いが、足だけでボールもどきをゴールに入れる競技をしたり、少し知能の高そうな奴らには、厳密なルールに基づいた野球を教えた。
体育館みたいな物も作り、卓球なども行った。
ただまあ、あんま跳ねるボールは作れないもんだから、あくまでも、もどきにしかならないが。
なお、ボールが跳ねるのを前提のバスケは無理だった。
優勝チームには酒や景品を用意したら、そりゃ盛り上がりますわ。
平日に練習までしだす奴らが現れたほど。
ちょっとしたプロスポーツを作れそうな勢いだ。
なお翌日にはみんなグロッキーで、休日はたいがい屍が出来ている。
休日は大事だが、ロクな娯楽も無しにやる事がないと、それこそロクな事をしでかさないから、これはこれで良かったのかもしれない。
「え~と、それでなんの話ですか?」
「ああ、そうだったね。実は用意して貰いたい物が幾つかあります」
そう言いながら、オレはファリスさんに指示を与える。
「これ、もしかしてダンジョンに与えるのですか?」
「そのつもりです」
「うう~ん、ま、私は言われた物を集めて来ますよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます