第6話 想い馳せる
それから数年後。奏夜は緋目と何度かお付き合いをした後、結婚し、
爺は要目が生まれた数か月後に亡くなった。寿命だ。爺は不死ではないから奏夜と同じように生きられない。
爺は奏夜が緋目と結ばれることを予見していたのだろうか。だからあの時、あんなことを言ったのだろうか。今となっては分からない。
だが幸いなことに、爺は生まれたばかりの要目を見ることができた。
現在、奏夜はふと思い立ち、書斎でアルバムをめくっていた。
ある頁の写真を見てめくる手を止めた。
(ああ、あの時の)
思わず笑みがこぼれる。
その写真には、盛大に泣いている要目と、それを必死に宥めている爺が写っていた。
要目が生まれて間もない頃、爺が要目を抱っこした。奏夜が記念に写真を撮ろうとカメラを構え、シャッターを押した時、シャッター音に驚いた要目が盛大に泣き出したのだ。爺はかなり慌てふためき、要目を宥めていたが、なかなか泣き止まず、結局緋目が抱っこして泣き止んだことがあった。
爺はいつも奏夜のことを考え、奏夜のために動いていた。自分の時間は全て奏夜のために費やしてくれていた。そのおかげで奏夜は立派に育ったし、今では父親になった。
爺が幸せだったか分からない。だが、要目が生まれた時は誰よりも喜んでくれていたのを覚えている。
爺が涙ぐみながら生まれたばかりの要目を抱っこしていた光景は、今でも忘れられない。
アルバムを閉じた時、書斎のドアが開く。要目が泣きながら部屋に入ってきた。奏夜は要目の正面にしゃがんで訊く。
「どうしたの?」
要目は泣きじゃくりながら白いリボンを差し出す。
「リボン……ほどけちゃった。おかあさんに結んでもらったのに」
白いリボンは昔、緋目が髪をハーフアップに結うために使っていた。だが今は要目に譲り、要目が使っている。
「要目、泣かないで。可愛いお目々が台無しだよ」
要目の黒髪や可愛い顔は緋目に似た。そして赤い目も。
外見に関しては奏夜の要素がない。無理やり挙げるとするならば、髪の色が緋目と同じ黒色だけだ。
奏夜は要目の涙を親指で拭う。
「結んであげるから、後ろを向いて」
要目はおとなしく後ろを向く。奏夜はリボンを受け取り、要目の髪の先端で結ぶ。
「要目。もし、要目の目のことを悪く言う奴がいたらお父さんに言いなさい。ぶっ飛ばしてあげるからね」
緋目によく似た要目はきっと、美しい女性に育つだろう。
将来が楽しみだ。奏夜は白いリボンを結びながら要目の未来に想いをはせた。
だが全ては夢物語。
そしてもう戻らぬ日々……。
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おまけ
「残映」とは、「かつて華やかであったものの名残」
という意味があります。
この話は要目ちゃんの両親と要目ちゃんが一番幸せだったころの思い出です。
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