第5話 心躍るチョコレート

 それから三日後。奏夜の父が出張で家にいない時のことだった。

 気分転換に外に出かけようと玄関を開けた時、緋目と鉢合わせになったのだ。


「!」

「!」


 奏夜は驚きで固まってしまった。緋目も同様、手土産を抱えたまま硬直している。

 最初に会った時と同じ、黒髪を白いリボンでハーフアップに結っている。だが前回と違い、白いワンピースを着ていた。


「あの……」


 緋目はぎこちなく奏夜に手土産を差し出す。白色の箱に茶色のリボンがかかっている。


「これ、お詫びです……」


 何を詫びられているのか分からないが、とりあえず奏夜は黙ってそれを受け取る。

 昨日爺に言われた言葉を思い出す。

 まずは相手の話をちゃんと聞こう。奏夜が話すのはそれからだ。

 緋目は俯きがちに言う。


「……ごめんなさい。私、目がきれいだなんて言われたことなくて……嬉しかったの……だから――ちょっと?」


 気づけば奏夜は爺に背中を支えられていた。後ろに倒れる寸前、爺に支えられたらしい。緋目は手を伸ばし、奏夜を掴もうとして止まっている。

 嫌われたわけではなかった。そして奏夜が緋目を傷つけたわけでもなかった。

 安堵と感動で力が抜けてしまった。奏夜は自力で立ち上がる。


「ごめん。力が抜けた」


 緋目は手を降ろし、両手を体の前に、ぎゅっと拳を作る。


「あの……良かったら今度、一緒にお茶をしませんか?」


 また倒れるかと思った。「今度」という言葉が脳内で反響している。


「いいよ」


 また会える、そう思うと胸が締め付けられる。そういえば最初に緋目を見た時から 胸を締め付けられていた気がする。あの時は気のせいだと思っていたが。

 奏夜は手土産に視線を落とす。それは奏夜の大好物のチョコレートだった。


「せっかくだから、一緒に食べようか」


 爺が察して踵を返す。お茶の用意をしに行ったのだろう。

 手土産のチョコレートを食べながらどんな話をしようか、奏夜は心を躍らせながら 緋目を屋敷の中に招き入れる。

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