第4話 涙のチョコレート

 今度は奏夜が泣く番だった。

 ベッドの上で枕に顔を埋め、嗚咽を上げながら泣いていた。

 あれから緋目は奏夜と目を合わせなかった。帰るまで一言も交わさず、気まずいまま別れてしまった。

 完全に嫌われた。何が悪かったのか分からないが、それは確かだ。

 見かねた爺が奏夜の傍に盆を置いて言う。 


「奏夜さま。チョコレートでも食べて元気を出してください」


 チョコレートは好物だが、今は食べる気になれない。


「フラれた……緋目さんにフラれた」

「フラれたって、告白すらできていないではありませんか」

「僕のお姫様」

「あなたのものと決まったわけでもありませんよ」


 奏夜は枕から顔を上げ、正論を淡々と言う爺をキッと睨んだ。


「爺の鬼! 悪魔! 冷酷熱燗!」

「冷酷無惨と言いたいのですか? でしたら「冷酷」と「ん」しか合っていませんよ。それに熱いのか冷たいのかどっちかにしてほしいですね」

「うー……」


 奏夜はまた枕に顔を突っ伏す。

 奏夜にはあの時、なぜ緋目が泣いたのか分からない。思い返してみるが何かひどいことを言った覚えはない。だが、奏夜の言葉の中に緋目を泣かせる言葉があったのなら、それは奏夜が悪い。


「奏夜さま」


 爺がベッドの隅に座る。


「慰めになるか分かりませんが、もし縁があったなら、もう一度緋目さまと会えますよ。ただ、その時、嫌われたとか、フラれたとか、自分が傷つけてしまったかもしれないとか、そういった先入観は捨ててください。真摯に向き合って、話を聞いてあげてください」

「?」


 まるで緋目がもう一度この家に来るような口ぶりだ。気のせいだろうか。


「今日はゆっくりお休みください。奏夜さま」


 爺が奏夜の頭をぽんぽん叩くとそのまま退出した。

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