第2話 一目惚れ

  表の玄関から入ると、大広間が客を出迎える。大広間は親戚や役員や社長クラスなどを招待し、パーティーを行うためにあるという。

 奏夜は二階の廊下を歩く。すでに大広間には現当主の父親と武器会社の会長らしき中年の男、そしてその隣に女性が佇んでいた。

 白いブラウスに紺色のロングスカート、艶やかな黒髪を白いリボンでハーフアップに結っている。俯いていて顔は分からないが、上品そうなのは分かった。

 奏夜は女性の顔を見ようと手すりから体を乗り出す。爺が奏夜の首根っこを掴み、引き戻した。 


「奏夜さま。落ちますよ」

「爺……あの清楚な女性は誰?」

「確か……会長のご息女、緋目ひめさまですね」

「! お姫さま?」

「緋目さま、です。確か今日は長女の日和ひよりさまが来る予定でしたが」

 なぜ緋目が来たのか、その理由は階下で聞こえた父達の会話で判明した。

「今日、長女の日和は体調を崩しましてね。今日は代わりに緋目を連れてきた」


 緋目は目を伏せてお辞儀をする。


「初めまして、緋目といいます」


 奏夜の父は緋目に挨拶しようと口を開けたが、遮られた。


「緋目。今から商談するから、外で待っていなさい」

「はい、お父様」


 緋目は目を伏せたまま、さっさと外に出て行く。

 奏夜の父は口を閉じ、二回ほどゆっくり瞬きをする。そして、大広間から男を応接間に案内するために離れて行った。

 これはチャンスだ。奏夜は大広間から誰もいなくなったのを見て、階段を使わずに二階から飛び降りた。

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