第4話 午後 曇天

 あの後、渡利は青年を別室に連れて行き、その間ボスに青年の全ての行動を報告した。命令通り包み隠さず話すとボスはかなりご満悦の様子で青年を呼び寄せた。

 あの部屋でまた青年とボスが向かい合っている。さっきと情景は変わらず、ボスの周りには数名の部下が控えている。だが唯一変わったのは、テーブルの上にさっき斬った首があることだった。


「よくやってくれた。報酬をやろう」


 テーブルの上に袋が置かれる。かなりの大金があることは袋の膨らみで分かった。

 青年はそれを受け取ると部屋を出て行こうとする。だが、部屋には鍵がかかっており、青年が出ることは叶わなかった。


「お前、うちの組織で働かないか?」


 青年は首だけで振り返る。


「お前のこと、すごく気に入った。今よりもっと多い報酬もやる。それに」


 ボスの後ろに控えていた部下達が一斉に青年へ機関銃を向けた。


「選択肢はない。断れば殺す。賢い選択をしたほうがいいぞ」


 青年は体ごと正面を向く。

 そしてボスの首を斬り飛ばした。


「え?」


 速すぎて全く分からなかった。誰もが呆然とする中、青年はボスの近くの部下を大鉈で突き刺した。

 やっと状況に気付き、皆が一斉に発砲するが、青年は怖じ気つくことなく機関銃を持つ手ごと斬り落とす。

 青年は手首をくるっと捻って大鉈を持ち直し、相手の体を真っ二つにする。

 そんな中、渡利はなぜか無傷だった。そのまま部屋を出て逃げようとするが、不幸なことに、渡利はこの部屋の鍵の在処を知らなかった。

 渡利は出口付近の壁に背中をつけ、機関銃を青年に向けて撃つ。

 残念ながら急所には命中しなかったが、銃弾が青年の右脇腹に当たった。

 この時、初めて青年の表情が歪んだ。

 青年はその場にしゃがみ込んだが、右足を立て、跳躍して渡利の体を上から下へ斬った。

 青年の顔は無表情に戻っていた。

 それが、渡利が最期に見たものだった。

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