第3話 昼 晴のち曇り

 渡利の所属する組織は主に違法薬物で金儲けをしている。今のボスになってから組織は強大になり、その分、敵も増えてきた。今回殺すのは敵対する組織の長だ。最近は老いのせいか、病気になり寝たきりになったと聞く。

 渡利は青年と共に徒歩で目的地に向かう。馬車を使うと見つかる可能性が高いからだ。

 目的地とは山の中腹にある豪邸。入り口を屈強な二人の男が見張っていた。

 見つからないように木の陰に身を隠し、様子を伺う。

 敵対する組織の長を殺すことは簡単だろう。だが問題は長を取り囲む護衛達だ。

 大金で雇われた護衛の中には凄腕の殺し屋も含まれており、おそらく入り口に立っている男達もそうだ。

 入り口を突破するだけでも骨が折れそうだ。


「あの豪邸の最上階の奥に対象者がいる。そいつを殺して首をとる、できるな?」


 返事がない。見ると青年はいつの間にか入り口に悠々と近づいていた。

「やあ」


 手をヒラヒラと振りながら歩を進める。男達はお互い目を合わせた後、青年に拳銃を向けた。


「ごめんね。驚かせてしまって」


 青年はマントの中に右手を突っ込むと大鉈を取り出し、男達の両腕をぶった斬った。

 男達は何が起きたか理解できず、ただ斬り落とされた両腕を見つめる。

 その間に青年は続けざまに男達の首を連続して刎ねた。夥しい量の血を空に飛ばし、男達は地面に倒れる。

 青年は入り口を大鉈で斬って侵入する。渡利は青年の手際の良さに呆然としていた。だがハッと正気に戻り、置いて行かれないよう青年の後に続く。敵が現れた時に対応できるよう散弾銃を手に持って。


「!」


 豪邸に入ると、すぐに見晴らしのいい大広間に差し掛かる。大広間には敵が集まっていたが、青年はたった一人で次々と敵を薙ぎ斬っていった。

 大鉈を地面に引きずりながら敵に突進し、その首を狩る。回転しながら後ろの敵の体を横に真っ二つにした。

 突然、青年の後ろからボウガンの矢が飛んでくる。渡利は注意を喚起しようとしたが、青年は右にずれ、矢を左手で掴んだ。その矢を目の前にいる敵の胸に突き刺し、右足で蹴って矢を貫通させる。その直後、大鉈を投げる。大鉈はくるくると横向きに旋回し、ボウガンを持った敵を斬った。

 ブーメランの如く、旋回した大鉈は青年の左手に戻ってくる。

 青年は鉈を右手に持ち変え、引きずりながら前に進む。階段に辿り着いた時、頭上の手すりから敵が乗り出し、機関銃を青年に向けて発砲してきた。


(危ない!)


 さすがにこれは避けられない、そう思った。

 だが青年は一瞥しただけで、発砲と同時に一歩下がり鉈を大きく横に振った。銃弾は青年に一つも当たらず、跳弾し、敵の体に当たった。

 青年は階段を上がり終えると、さっきの敵に大鉈でとどめを刺す。

 その直後、二階の全ての部屋のドアが開き、敵が一斉に青年に襲いかかってきた。

 青年は大鉈を一旦地面に突き刺し、マントに両手を入れ、小刀を出す。両手の全ての指の隙間に挟んだ小刀を片手ずつ飛ばし、相手の喉に突き刺す。

 その後、大鉈を地面から引き抜き、回転しながら敵を薙ぎ斬る。

 この様子だと、渡利が参戦する必要はなさそうだ。

 長のいる奥の部屋に到着すると、青年は堂々とドアを開ける。

 パン、銃弾が青年の頬をかすった。

 その部屋の中にいたのは老人、まさに青年が殺すべき奴だった。ベッドの上で拳銃を手に威嚇する。


「何奴! 他の者はどうした?」

「斬った」


 青年は一歩ずつ近づいていく。老人が発砲するが、青年に全く当たらない。そして弾切れとなる。


「やめろ」


 老人の顔が青白くなる。

 青年は靴のままベッドに上がると鉈で老人の胸を突き刺した。そして約束通り、首を斬り落とす。

 恐ろしい奴だ。

 青年はたった一人で数えきれない死体を積み上げた。

 不思議なのは、青年が全く表情を変えないところだった。普通は快楽か、罪悪感から来る表情を浮かべそうなのに、青年は淡々としている。


(なるほど)


 死神と異名がつけられる理由が分かった気がした。

 青年は、淡々と殺しを行っている。

 もしかしたら青年は殺すことに対して何も感じていないのかもしれない。

 青年は斬り落とした首を持ち、渡利に近づく。


「よくやった。戻るぞ」


 渡利は銃をしまい、先を歩いた。

 青年は首を持って渡利の後に続いた。

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