第9話 再会 3

「分かった。では、今からお前を抱く。」


正臣は立ち上がり、香世を軽々抱き上げ歩き出す。


香世の心臓はドキンと鳴り響き、

身体中を緊張が駆け巡る。


突然の急接近に驚き固まり、息をも忘れるほどに戸惑う。


「あ、あの、二階堂中尉…様……

あの……ど、どちらに……?」


「俺の自室だが、何か問題でも?」

冷めた声でそう言われ間近に見下ろされた瞳は、綺麗に澄んでいて妖艶さを醸し出している。


「わ、私で、貴方様のお相手は務まるのでしょうか?……」


この先どう言う事が起こるのか、

男女がどのように交わるのか、

全くと言っていいほど無知な香世は、

未知な世界に戸惑い、慄く。


どうせ、花街にまで落ちたこの身、

早かれ遅かれ通らなければならなかった道なのだ。


覚悟を決めなさい。

香世、泣いたらダメよ。

そう自分自身に言い聞かせる。


震える身体を両手で押さえながら、

正臣に抱えられてなすがままに運ばれて行く。


組み敷かれて布団の上、

香世は正臣との距離の近さに緊張する。


唇を噛み締め、震える手をギュッと握りしめてただ、泣かないように正臣を見つめ返す。


両の手首を取られ、頭の上で片手で押さえ付けられる。

正臣との力の違いは大きく、

香世が抵抗しようとしてもびくともしない。


「俺1人で、こんなに震えているのに花街なんかでやっていけたのか?」

冷たい目で見下ろされる。


「こ、これは武者震いです…。」

香世は泣きそうになる自分を奮い立たせる為に、強がりを言う。


「お前の強がりは嫌いじゃない。」


正臣が妖艶に笑ったかと思うと、

香世の襟元を掴み大きく開かれる。


怖い、っと思い香世は咄嗟に目をギュッと瞑る。

昔受けた傷口に触れられビクッと体が震える。


正臣が思っていたより深い傷だった事を物語るその傷は、

5センチほどの大きさでミミズ腫れのように赤く盛り上がり、

白く綺麗な肌に歪に浮かび上がっていた。


正臣はその傷に唇を寄せる。


香世は固くなり次に何をされるのか目を瞑ったまま覚悟する。


フッと、掴まれていた手が離れ正臣の影が離れた。香世はそっと目を開ける。


「嫌がる女子を抱く趣味は無い。」

正臣はそう言って部屋を出て行ってしまう。


1人残された香世は訳が分からず涙が出てくる。


「うっ…うっ…うっ…」


布団で仰向けになったまま両手で顔を覆い、

声を抑えながら泣き続ける。


自分が子供だと思い知らされる。


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