第6話 発見したが……

 目的地のソープランドの場所を調べるために朝香さんが離れている間、俺と恭香と吉広はコンビニの駐車場に止めたステップワゴンの中で待つしかなかった。空がだんだん薄暗くなってくる。やがて、後ろの座席に朝香さんが戻ってきた。

「言うよ。吉広、メモの準備はいい?」

「う、うん。どうぞ」

「東京都〇×区大〇町4丁目6-55」

「OK」

 俺は聞き耳を立てていて、即座にカーナビに住所を打ち込む。ただし、20数年前の住所だ。今現在もそこがソープランドである保証は、はっきり言って、ない。ないと分かっていても、行ってみるしかない。俺は車を発進させる。

「裁判所の記録って事件性があるものでも15年が最長っぽいのよね。知らなかったわ。だから、内閣府の資料室に行って乙羽事件のファイル漁って見つけたのよ。だから時間かかった」

「ああー、公然と噂になってたけど、事実だったのか。乙羽事件についてのネット情報を政府が消し去ったってのは」

 この手の噂は何をどうしてもネット全盛期の今、何かしらは漏れるものだ。乙羽事件のあと、やたら政府のお偉いさんたちが強姦を未然に防いだ、というニュースが連発して世間を騒がせたが、誰か霊能力というか、予言が出来る人が教えたんだろうな、とか俺と吉広は想像していたものだ。このおっさんらも何らかの理由であの呪いのAVを見たんだろうな、とか。街が本格的に暗くなってきた。俺はヘッドライトをつける。恭香は全くしゃべらない。瞬きが激しいので、さっき俺たちが教えた情報を反芻しているのかもしれない。吉広と朝香さんも無言だ。みんな、何をどう乙羽美由紀に言えばいいか、と考えているのかもしれない。確かに、復讐の鬼と化している乙羽にどんな言葉を並べても無駄に思える。おまけに、どれだけの能力を持っているのか想像もつかない。最悪、ひと睨みだけで人を殺すぐらいできるとしたら……。俺たちはともかく、吉広は危ないかもしれない。こいつの空気読めない性格は変わってないしな……。国道を抜け、夜を受け入れ始めている商店街の一角に入っていく。

「いた!!」

 と朝香さんが絶叫した。俺たち三人は思わず飛び上がった。ん? 三人? ということは。

「恭香、朝香さんの声が聞こえた?」

「聞こえた! 女の人の声!」

「それはいいけど、ほら、通り過ぎたよ!」

 恭香に気を取られて目視出来なかった。ともかく、車道の端に寄せて止まる。暗くなっているのもあって、サイドミラーからでは確認出来ない。

「横道に入ったんだわ。行かなきゃ」

 なかなか人通りの多い商店街だ。駐禁を取られたくないし、余り役に立ちそうもないので、吉広を置いていくことにする。

「お前は残れ。最悪、乙羽美由紀に殺されるかもしれないしな」

「分かった。上手くいくことを祈ってる」

 という事で三人、人間ふたり、幽霊ひとりは車を降り、小走りで道を戻る。

「この向こうだと思う。ほら、電柱」

 確かにここは〇×区大〇町だ。

「ソープランドの名前分かります?」

「えー、なんだっけ、ムーンシャドウゾーンかなにか」

「あの女性?」

 少し前を歩く若い女性が、ある建物に入っていく。見上げた俺の目に入ってきたのは「ムーンシャドウソープ」という白い照明に輝く店名。ちょっと違ったな、と思いつつ、全速力で走る。

「美幸っ、待てっ!」

 と俺は大声で叫んだ。

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