第5話 追いかける!
吉広にともかく俺の家に来るようにと言って、俺は重い足取りで階段を昇る。恭香に一体どう説明すればいい?
「破けた服があるから、かえって変な想像してしまうかもしれない。バッグとか財布とか持って行ってたし、泥棒に入られたと思うかもね」
朝香さんも困り顔だ。どう説明すれば納得してもらえるか。
「ふぐぅ……美幸自体はいなくなってるし、捜索願いを出すとかもいいかねないな。朝香さん何か出来ない?」
「……そういう能力はないなぁ。これ困ったねぇ。正直に全部話すしかないと思うけど、信じるかな。そういうオカルト系の話に理解ある人?」
「あんまりなさそう。テレビで心霊動画の特集とか見たら怖い怖い言ってるけど、そのレベル」
我が家について扉を開けて入った途端、恭香が悲壮な顔をして走り寄ってきた。ボロボロになった美幸の服をもって。なるほど、完璧に破けていて、事件の匂いしかしない。俺は腹をくくった。少々のごまかしでは納得させることは出来ないと分かったからだ。ひとまず、服を受け取り、リビングのソファに二人並んで座る。朝香さんが意図的に恭香の前に立ったが、無反応だ。見えてない。
「恭香、落ち着いてくれ。まず、美幸は無事だ。元気いっぱいだ。ひとまず心配はない」
「一体どういうことなの? あなたがどこかへ連れて行ったの?」
俺はうつむきながら、いや、そうじゃない、自分で歩いて行ったんだ、と本当の事を話した。恭香は何を言ってるの、あの子が一人でどこかへ行ったってこと? それならなぜ止めなかったの、と怒りをあらわにしだした。当然だ。
「恭香、俺が今から話すことはにわかには信じられないかもしれない。だが、全て真実なんだ。だから、よく聞いてくれ」
と、俺はシリアスそのものの面持ちで全てを説明した。乙羽事件の事、今いる朝香さんの事、美幸は乙羽美由紀の生まれ変わりであること……。インターホンが鳴った。朝香さんが気を利かせて迎えに行く。鍵は開けてあるので、すぐに吉広が青ざめた顔で入ってくる。恭香は……何が何だか分からない、と呆然としている。
「そんな……もう大人になったって、まだ一人でトイレにもいけないのに? そんな話信じられない。もう可愛い美幸は帰ってこないの? 死んじゃったの?」
「死んではいない。ただ、もう2歳には戻らないと思う。でもな、ここに戻すことは場合によっては可能なんだ。すぐに出かけないといけない。落ち着いて待っててくれるか?」
「美幸ちゃんを助けに行くのね? それなら私も行くわ。すぐに行きましょう」
俺は朝香さんの顔を見る。朝香さんは試案顔だったが、乙羽美由紀が恭香に懐いていたことを思い出して、得になると判断したのか、うなずいた。
「いいわ、一緒に行きましょう。早くしないと間に合わない。もっとも、乙羽はタクシーか電車で移動してると思うけど」
俺はすぐ恭香に着替えるように言う。そして車のキーをポケットに突っ込む。
「あんたいま何に乗ってんの」
「ただのステップワゴン」
ベランダの向こう側にはまだ青い空が広がっている。暗くなる前に見つけたいが……。誰も殺させない。俺は固く決意して、拳を握りしめていた。
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