第3話 朝香さんの衝撃
※この章は朝香目線になります
ここか、幸人の新居は。まぁまぁ綺麗じゃないの。奥さんがしっかりしてるのね。なんてことない2LDKの賃貸マンションだけど。そっとドアをすり抜ける。幽霊なので移動は自由自在だし、イメージがはっきり分かればそこへ瞬時に行くことも出来る。生きている人間の世界の物理法則は一切関係ない。リビングには誰もおらず、とても静かだ。壁にかかっている時計を見るとお昼の三時過ぎ。ママも娘もお昼寝の時間かな。隣の部屋に入ると、二人がいた。やはり予想通り眠りの中にいる。私は美幸に近づいて、まじまじと顔を見つめる。瞳を閉じているのでいまいちわかりにくい。と思った瞬間、美幸がぱっちりと瞳を開いた。思わず後ろに下がったが、よく考えたら見えないのか、私の事は、と思い直し、じっと美幸を見つめ続けた。
━━あなたはだれ?
と、突然心の中に声が響いてくる。なんですって、今話しかけてきたのはもしやこの子? とたじろいでいると、更に続けて話しかけてくる。
━━お姉ちゃん幽霊なんだね。かわいそう。男の人にひどい目にあわされたんでしょう。
「あ、あなた……は……どうして……生まれ変わってきたの?」
━━お姉ちゃん、いろいろ知ってるんだね。お姉ちゃんは私のてき?
「敵じゃないわ。私が知りたいのは、あなたが何をしたいか、よ。乙羽美由紀さん」
━━わたし? わたしはしあわせになりたいの。
しあわせになりたい? それだけ?それだけなら、何の問題もない……。
「そう……前世は大変だったものね。心から同情するわ。でも、もういいのね?」
━━いいわけないじゃない。わたしのしあわせは、男をみなごろしにすることよ
うわわやっぱりそういう感じかぁぁ。気づけば、美幸の顔がうっすら赤くなっているように見える。この子の霊能力は途轍もない。自分の出演したビデオを見ただけで、その男を不能にした上に突然死させることが出来たほどだ。
「でも、今はまだ殺してないのね。まだ小さいから?」
━━パパとママに愛されて過ごす毎日はたのしかった。わたしは、愛されることをしらなかった。みたされてた。でも……もうそろそろいいか、あなたみたいに気づく人が出てきてしまったものね。
最後の口調が大人びた感じに変調したのを感じた私は一歩下がった。美幸がすっくと立ちあがった。そして、こちらを見て微笑みながら……なんと、どんどん大きくなってゆく!なんてこと……。私は息を飲んだ。着ていた服は破れ、裸になったその姿は、20歳ぐらいの女性のそれだ。間違いなく、乙羽美由紀がそこにいた。
━━お姉さんは幽霊で良かったね。もう死なないものね。
言いながら美幸は母親のクローゼットを開け、下着など身に着けてゆく。呆然と見ていた私は、一体どうすれば……と混乱した頭を必死に落ち着かせる。そうだ、この子はどこへ行く気なのだ。
「いったい今からどこへ行くの?」
━━私を地獄に落とした男たちがまだ生きている。取りあえずこいつらを全員殺すよ。その後も男をひたすら殺していくの。それがわたしのしあわせ。
その時の乙羽の凍り付くような視線が忘れられない。一切の優しさや思いやりという種類の感情がゴミのように思えてしまうような。私はもはや何も言えなかった。乙羽は母親のブランドバックの中にあれこれ詰め込んでいる。何を言っても無駄だと分かった私はうなだれて彼女を見つめる事しか出来なかった。乙羽は悠然と家のドアを開けてどこかへ消えていった。幸人は何をしている? 瞳を閉じて居場所を想念してみた。マンションのエントランスでちょうど乙羽と会うところだ! 私も急いで移動することにした。
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