第7話 幼馴染の作る弁当も美味しい
つばめがメイドとして働き始めてからしばらく経ってきた。
あまり話さなくなった幼馴染と毎日話せるようになったのは俺にとっては嬉しい限りだ。
しかし、それはあくまで家の中でのこと。学校だとそうじゃない。
学校ではこれまでと変わらずの状況だ。
俺としては学校でも普通に話したりしたいと思っている。
でも、つばめにとってはそうじゃないらしい。女子高校生だ。いつまでたっても幼馴染の男と話したりはしないよな。幼馴染ってだけでカップルとか思われかねないわけだし。
おまけにメイドとして働いているという状況もある。
幼馴染の家でメイドとして働いているなんて学校の誰にも知られたくもない。
知られでもしたらいろいろと変な噂が立ちかねない。
それはつばめにとって不利益だ。
一応雇い主として彼女のために最大限の配慮をしない。
そんなことを考えながら今日も俺はつばめが作ってくれたお弁当を口にする。
毎度毎度思うが、つばめのお弁当は美味しい。
朝食や夕食でつばめの料理はおいしいことは理解しているが、弁当も美味しいなんて反則だよ。
弁当である以上料理は温かくないが、それでも十分美味しい。
冷めてもおいしい料理を作れる人って本当に料理が上手な証だ。
それを食べられているってなんて幸せなことだろうか。
ちゃんと味わって食べないと。
「司の弁当っておいしそうだよな」
一緒に食べていた鷹人が俺の弁当を見ながらそう言った。
「美味しそうじゃなくて実際に美味しいぞ」
「そうだよな。見てるだけでうまそうだもん」
「見なくてもうまいぞ」
味も薄すぎず、濃ゆすぎず俺の舌が美味しいと感じる絶妙な味加減にしてくれている。
毎日作ってくれているから俺の好みを覚えてくれて、それを弁当にも反映させてくれている。メイドの仕事してこの上ないな。
「自分で作っているのか?」
「いや。俺にこれほどの料理は作れないぞ」
作れるが、つばめほどの料理の腕はない。
「じゃあ誰かに作ってもらっているのか?」
「ああ。そうだ…‥………ぞ」
俺はくちをつぐんだ。
「ん?どうした?」
「いや、なんでもない」
「作ってもらっているのか」
「えっと…………そ~だな。そうだな」
ごまかしは効かないから、肯定するしかなかった。
「誰から作ってもらってるって言ったけど、お前の両親海外に行ってるんじゃなかったか?」
「そ、そうなんだけどな」
「だよな。じゃあ誰が作ってるんだ?」
「あ、えっとそのな…………」
「彼女か?」
「俺に彼女はいないっての」
きっとこれから先もできるとは思わないが。
しかし、つばめに作ってもらっているなんて口が裂けても言えない。
ここはありそうな嘘をついておくか。
「母親が一時的に帰ってきていてな。だから作ってもらってるんだ」
「へぇ~お前のお母さん今帰ってきてるのか。そりゃあよかったな」
「ああ。自分で家事をしなくて済んでるよ」
本当はつばめにしてもらっているのだが。こんなこと言えるわけないし。
「俺としてはてっきりつばめちゃんに作ってもらってるのかと思ったんだけどな」
「⁉」
突然の発言に
「ど、どうしてそう考えるんだ?」
「だってよ。女の子にまるでモテてなくて、一人暮らしをしているくせにそんなおいしそうな弁当を食べている。可能性としてはつばめちゃんが作ってるぐらいしか考えられないだろ」
「は、ははは…………そんなわけないだろ」
一瞬動揺したが、すぐに否定する。
「つばめだぞ。学校でのあいつの態度を見たらあいつが俺に対してそんなことをしてくるはずがないだろ」
「どうかな。学校ではそんな感じだけど、二人っきりになると実はそうでもないかもしれないじゃん」
「あんな『近寄るな』って空気をビンビンに出してるのにか」
「そうなんだよな」
「だろ」
「だから考えたんだよ。もしかして司の両親に頼まれたか、雇われる形で作ってるんじゃないのかなって。幼馴染の両親に頼まれたらいくらつばめちゃんでも断れないだろ」
「そういうことがあれば確かにそうなるかもな」
平然は装っているが、心の中はかなり動揺した。
なんでそんな的確に言い当ててくるんだよ。ほぼ事実を言い当てるってお前はエスパーか何かかよ。
「で、ないの?」
「ないよ」
本当はあるけど。なんらメイド服着てくれる。
「とか言って本当は?」
「ないって言ってるだろ」
「いきなりお前の家に行ったときにつばめちゃんが出てくるとかは」
「ないわ」
夕方ならありえなくはない話だが。
「なんだ。残念だな」
「別に残念じゃないだろ」
「だって友達のそういう話聞くの楽しいじゃんか」
「楽しいか」
「ああ。楽しいし、面白い。特につばめちゃんみたいな女の子が幼馴染とできてたなんて話はな」
「あったらいいな、そんな話」
「ないのか~」
「ないからな。あとまじまじとこっちを見るな」
もし本当にそんなことになったら一番に報告してやるよ。
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