第6話 初めての耳掃除
「耳かゆいな」
夕食後、ソファーに座ってゆっくりしていると無性に耳がかゆくなってきた。
耳の穴に小指を突っ込んでかゆみを紛らわしてみる。
かゆみは解消されない。
「何してるの?」
「いや、耳がかゆくなってな」
「耳かき使いなさいよ。手で触ったら汚いわよ」
「悪い。つい癖で」
当たり前にしていたが女の子から見ればこの行為は汚かったか。
「耳かきでもするか」
ソファーから腰を上げて、耳かきを探す。
確か引き出しのどこかに入っていた気がするんだが。
「あれ?どこ行った?」
物色するが見当たらない。
先月も使って、この引き出しに入れたはずだから入ってるはずなんだけどな。
「もしかして耳かき探してるの?」
「うん。確かここに入れてたつもりなんだけど見当たらなくて」
「ここにあるわよ」
つばめの手に俺が探していた耳かきが握られていた。
「何でもってるんだ?別のところにおいてあった?」
「私がさっきそこの引き出しから出したの」
「あ、そうなの?」
そりゃあいくら探しても見当たらないはずだ。
「つばめが使うのか?」
「使わないわよ。昨日掃除したし」
「じゃあもらっていいか」
「……‥……………」
あれ?どうしたんだ。
耳かきを握ったままつばめは黙り込んでいる。
「つばめ、どうしたんだよ」
「わ…‥」
「わ?」
「わ……………私が掃除してあげる」
「へっ?」
「だ、だって自分でしてもあまり上手そうにできなさそうだし」
「俺をなんだと思ってるんですか」
高校生なんだか一人で耳かきぐらいできるぞ。
「それに……………これもメイドの仕事だし」
「し、仕事?」
契約内容に耳かきのオプションでも入っていたのか。
「いや。無理しなくていいからな。他人の耳を掃除するなんて普通嫌だろ。人の耳から垢を取り出すわけだしさ」
「大丈夫よ!それぐらいできるから!」
「いや、本当に無理しなくていいから」
「大丈夫って言ってるでしょ!」
「ほら!早く横になりなさいよ!」
よ、横になりなさいよって………………。
つばめの太ももに頭を置けってことだよな。
それってつまりつばめに膝枕をしてもらうってことか⁉
耳かきをしてもらう上に、幼馴染の同級生の女の子に膝枕をしてもらうのか?
「突っ立ってないで早く!余計恥ずかしくなってくるでしょうが!」
「だ、だったら無理しなくても」
「それは大丈夫って言ってるでしょ!いいから早くしなさい!」
「わ、わかったよ」
俺は覚悟を決める。
ソファーに一度座り、自分の頭をつばめの太ももにジャストフィットする位置にゆっくりと下ろす。
こ、これが………膝枕というものか。
初めての出来事に衝撃を受ける。
小さいころ母親にしてもらったことはあるが、女の子にしてもらったのは初めてのこと。
寝心地がいいか悪いは正直わからない。
だが、同級生にして幼馴染の可愛い女の子に膝枕をしてもらっているという時点で十分心が高揚しているのがわかる。
はっきり言って……………最高だ。
男子たちが一度は彼女にしてもらいたいというのがよくわかる。
「さっそく掃除するから」
そうだった。膝枕をしてもらうことのは耳かきに必要な過程にすぎない。
これからが本番だ。
本番っていうのも可笑しいか。
「お、おう。頼む」
俺の耳に耳かきがゆっくりと入ってきた。
そこから少しずつ動かしながら耳の垢をとっていく感触が伝わってくる。
やばいな。
つばめに耳かきをしてもらっているだけなのに、気持ちよいと感じる。自分がしているのと変わらないはずなのに通常の何倍も気持ちいいと感じてしまう。
女の子に膝枕をされながら、耳かきをされるのはこんなに気持ちがいいことなのか。
どうりでASMRで耳かきが多いのはそれが理由なのか。
俺も何度か聞いたことがあるけど、実際にしてもらう方がはるかにいい。
「あっ………」
「ちょ、ちょっと変な声出さないでよ」
「しょ、しょうがないだろ。気持ちよかったんだから」
「だからってそんな声出さないでよ」
「わかってるっての…………あっ、そこいい」
「このあたり?確かにこの辺りはよく溜まってるものね」
「そんなにか?」
「びっくりするほど溜まってるわけじゃないよ。他と比較して多いだけ」
「なるほどな」
その場所に溜まっている垢をつばめが的確に取っていっているのが余計に気持ちよさを倍増させてくる。
「なんでそんなにうまいんだよ」
「そう?」
「他の人にもしてたのか?」
「してないわよ。そんな人いないし」
「それなのにこんなにうまいのか」
「耳かきにうまいも下手もないと思うけど」
「あるだろ。力が強すぎると血とか出るしさ」
「今司にしてるのは私がしてる程度の力でしかしてない」
「じゃあそれぐらいが俺にとっては気持ちいいと感じるわけか」
「だからその気持ちいいとかいわないでって」
だって気持ちがいいんだから仕方ないだろ。口に出そうとしなくても蒸し器に口からでちゃうんだからさ。
「はい。片耳終わり。もう片方の耳もするから体勢変えて」
「わかった」
「あ、ちょっとまって」
「どうした?」
ふ~
「⁉」
耳に息を吹きかけられた。
「はい。これで大丈夫。体勢変えて」
「あ、ああ………」
俺は言われるままに体勢を変えた。
「つばめ、ひとつ聞いていいか」
「何?」
「なんでさっき息を吹きかけたんだ?」
「え?最後はそうするものじゃないの?」
「え、そうなのか?」
「え、違うの……………小さいころお母さんはしてたけど」
「うちの親はしてなかったけど」
「⁉」
ぐさっ!
掃除した後に耳を吹きかけるのが一般的じゃないということを知って驚いたせいか手に力が入り、耳かきが耳の奥に入った。
「あ、あの………痛いかったんですけど」
「………………わ、私は悪くないから」
「別につばめが悪いなんて言ってないから」
ちらっとつばめの顔を見上げてみると明らかに顔と耳が赤くなっている。
ようやく耳かきをしていることに慣れてきて、赤くなっていた顔が正常に戻ったと思ったからまた戻ってしまった。
つばめは黙ったまま耳掃除を続けていく。
よほどはずかしいのか一言も発する様子がない。
つばめ。
お前からしたらよほど恥ずかしいのかもしれないが、俺からしたら最高だったぞ。
女の子から耳に息を吹きかけてもらえるなんてシチュエーションを経験できるなんて思わなかったし、実際にしてもらえるとこの上なく体がぞくぞくしてよかった。
できることなら今掃除してもらっている耳もしてもらいたい。
というかしてください!
お願いします!
しかし、つばめはもう片方の耳に息を吹きかけてくれなかった。
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