第4,5話 魔性の………
メイドになってから何が一番大変だと思ったか。
それは洗濯だ。
料理でも、掃除でもなく、洗濯だ。
料理や掃除は大変だというイメージがあったが、洗濯に関してはさほどなかった。女の子の服関係は繊細なものが多いから、ネットに入れるとか、洗うものを分けるとかする必要があった。
男の子のものに関してはそんな必要はないものと勝手に思っていた。
しかし、それはなかった。
司が部活をしているからだ。
部活をしていると必ず毎日練習着は必要になるから、洗わないといけない。
しかも外の部活だから砂や泥をつけて帰ってくることも珍しくない。
落とせるものは外で落として帰ってきてくれるが、それでも完全に取れない。軽く手洗いした上で他の洗濯物と区別して洗わなければならない。
それが毎日だ。
部活をしているのが悪いわけでもないし、汚れるのは懸命に練習をしているということの証明だ。
部活生を持つ家族はこういうことになるのだろう。
室内のだったら多少は楽かな。できるなら室内の方がいいかな。
あ、でもあいつが野球をしているから、それに影響されて野球とかしてそう。
もしくは野球が嫌だから、同じ外球技でもサッカーをするのも考えられる。
一人いるだけでも大変だと思ってしまうのに、これが2人、3人といればどれだけ大変か。3人とも外の部活をするとなると毎日どれだけ洗濯をしないといけないのだろうか。
一回の洗濯で絶対に賄えるとは思えない。
何回も回す羽目になりそうだ。
「…………………」
何を言っているんだ私は⁉︎
大体まだ子供だっていないっていうのに、自分の子供が部活をしていることを想像するとは。
しかも父親も完全に決め打ちをしていた。
父親ってことは、その人と結婚をしている可能性も大いにある。
そうなるとつまりそういうことだということだ。
いろんな過程を全てすっ飛ばしている。こういうのは家庭が大事じゃん。
過程を大事にしないと、勢いで行ってしまうと関係性が容易く崩壊してしまう。
過程(家庭)だけに。
「って!何を言ってんのよ、私!」
また突っ込んでしまった。
上手いことを言ったつもりでいたけど、そんなこと考えている時点で過程すっ飛ばしてるじゃないのよ!
恥ずかしいことを惜しげもなく考えるとは恥ずかしい。
家庭を築く前の過程が大事ってことだったはずなのに。
まずは夫婦にならないと家庭なんて築けない。
「って!まだ付き合ってもいないじゃん!」
本日3度目となる自分のツッコミを入れる。
付き合っている人すらいないのに、その先のことを考えるってどうかしてる。
「………付き合いたい人はいるけど………」
その人と半同棲状態になってしまっている。
「変なことを考えていないで洗濯しよ」
手洗いをした練習着をネットに入れて洗濯機の中へ。
ついでにインナー類も洗濯する。
「インナーもあった…………」
一度外に出てあいつが来ていないことを確認すると、脱衣所の鍵を閉めてあいつが入ってこないようにする。
誰もいない、自分の1人の空間になったところで私はした。
思いっきり顔を埋めて匂いを嗅いだ。
深呼吸をするが如く、深く、深く吸っていく。
あいつの練習時の汗が染み込みまくっているインナー。
言ってしまえば汚れている、汚い衣類だ。
しかし、それに私は無性に惹かれる。
制服のシャツでもしてしまったことはあるけど、それ以上に私をくすぐる。
特段汗臭い匂いはしない。それは司が毎日練習をして汗を流しているからだ。
汗は体温調節の他に老廃物を体外に排出する作用もある。
汗臭いのはその老廃物の匂いだと言われている。
でも日常的に汗をかいている人は、日常的に老廃物を排出していることになるため、一般的に汗臭くない。アスリートは汗臭くないというのは有名な話だ。
司も部活生で毎日のように練習して汗をかいているから、汗が染み込んだインナー系もほとんど匂うことはない。
それなのに惹かれてしまうのは汗の匂いではなく、あいつの体臭的なものだ。
好きな人のシャツとかの匂いを嗅いでしまうというシーンは漫画でよくある。
最初に見た時は何をしているんだ、こいつらは、なんてことを思っていた。男がしても気持ち悪いが、女の子がやっていても何してんだ、とも思っていたが、いざ嗅ぐような状況に置かれてみるとわかる。
魔性だ。
麻薬とかに近い感覚なのかもしれない。
一度味わってしまえば、もう戻ることはできない。
か●ぱえび●ん以上にやめられない、止まらない。
こんなところを見られるわけにはいかない。
見られてしまっては私は変態のレッテルを貼られてしまう。
だからこっそりとする。秘め事の如くする。
時折自分の手が下の方に伸びそうになる時がある。
それは本当にまずい。とんでもないことになりかねない。
これがインナーとかで済んでるからよかったが、もし下着までも私が洗濯をすることにしていたら、毎日慰め行為を行っていたかも知れない。
いや、確実にしていたかも。
初日にあいつに対して、自分で洗ってよ、と言っていた私ナイスだ。
ちょっとがっかりなところはあるけど。
自分と生物学的に相性のいい人の体臭はいい匂いと感じるそうだ。少なくとも私は生物的にあいつと相性がいいことになる。
それを知れた時は心底嬉しかった。
「はあ………はあ………はあ………」
一嗅ぎするたびに私の脳が快楽を感じている。快楽物質がドバドバ出ている。
まずい。
体が勝手に動いてしまう。手が理性を跳ね除けて下へと伸びて行っている。
ダメのはわかっているのに。
やってはいけないことなのに、理性の歯止めが効かない。
「あれ?開かないぞ」
「⁉︎」
あいつが脱衣所にやってきた。
なんで?この時間は絶対に脱衣所にはこないのに。
そういえば、まだ今日はお風呂に入っていなかった。
お腹が空きすぎているから、今日はお風呂より先にご飯を食べたんだった。
「鍵かかってる?」
開けようと試みられているが、一向に開くことない。
「つばめ〜。中にいる?」
「い、いるわ!」
「なんか取り込み中?」
「ち、違うから!今開けるからちょっと待ってて」
私は急いで洗濯機の中に入れてから、鍵を開ける。
「なんで鍵をかけていたんだ?」
「ちょっと入られると困るから…………」
「困る?ああ、お風呂掃除か。メイド服濡れるから脱ぐっていっていたもんな。でも手を洗うときにここにきた時はもう沸いていたような気がしたんだけど」
「⁉︎」
なんでそういうことには敏感に気づくのよ。
「ちょ、ちょっと掃除が荒かったから、入れ直したのよ」
「そうなの?多少のことは気にしないけど」
「ダメよ。私が許さないから」
「悪いけど、もう少し時間かかるから待っててくれる?あとこれから洗濯もするから邪魔だから出ていってもらえると助かるわ」
「わかった。じゃあ沸いたら教えてくれ」
「ええ。その時は呼ぶから」
着替えだけ置いて司は脱衣所を後にした。
「はあ………危なかった……」
鍵をかけていて正解だった。
もしかけていなかったら、確実に見られてしまっていた。
変態の汚名を背負わされることになる。それはきつい。辛い。
全てが終わってしまう。
「と、とりあえず洗濯をしよう」
急いで洗濯機に入れてから、洗濯を開始した。
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