第4話 洗濯物を干しているメイドさんって絵になるよな

 雲一つなく、澄み渡った空。快晴の小春日和の週末の土曜日。

 俺は心地よい日差しを浴びるために、庭の縁側に腰を下ろしていた。

 その視線の先ではつばめが洗濯物を干している。

 いつも通りの俺の衣服とタオル類だ。下着は自分でしている。

 つばめから言われたからだが、言われなくても女の子に男の下着を洗濯してもらうわけにはいかない。

それと今日は平日では洗えないシーツ類も洗濯してくれている。。

 ありがたい。とてもありがたい。

 面倒くさくてシーツなんて洗っていない。ファブってたぐらいで済ませていた。

 それで大丈夫だとは思うが、一度洗って、日に当てて干すのがいい。

 お日様の匂いはしないかもしれないが、ファブるより気持ちよく感じる。

 メイド服姿で洗濯物を干しているつばめの姿を俺はじっと見る。

 じ………。

 俺の家の庭でロングスカートのメイドがいる。

 メイド服をきた幼馴染が俺の家の洗濯物を干しているってすごい状況だよな。

 色々と非日常的な光景だ。普通に見られない光景だ。

 メイドだって見ないのに、それが目の前で洗濯物を干してるんだよ。

 自分の家じゃないのかもしれないと思ってしまいそうになる。

 じ……………。

「何?」

 俺が見ているのに気がついたか、つばめが振り返った。

「いや。一般人の住宅にメイドがいるということになれないな、と思って」

 これがお金持ちの屋敷の庭の光景だったら何一つ違和感はなく、むしろ誰しもが容易に頭の中で想像ができる光景だ。

 一般人の家の庭でとなると異様だ。

 メイドがいないわけだし。

「慣れなさいよ」

 慣れなさいってな。

 慣れるわけがないだろ。

「慣れるために見てるんだけど」

 慣れるために俺にとって普通の光景にメイドという非日常の存在を日常の存在とするためには日常的に見る光景にメイドを入れておくのがいい。

 見慣れてしまえば、どうってことはない。

「視線がなんか嫌」

「変な目で見てるつもりはないぞ」

「そっちがその気がなくても、こっちがそう思えばそうなのよ」

「理不尽だ」

「理不尽でもなんでもないわよ」

「俺がつばめを性的な目で見てるわけでもあるまいに」

「見てたら普通に気持ち悪いわよ」

「幼馴染を変な目で見るかよ」

「他の人は変な目で見ると」

「他の人にもしないって。そんなことしたら俺はセクハラになるわ」

「仕えてる主人がセクハラの加害者になるのは嫌だから」

「俺もごめんだっての」

「まあ、でもつばめが洗濯物を干してる姿はなんか絵になるな」

「絵になったところでね」

 つばめはピンと来ていないかもしれないが、実際に絵になるんだよ。

 メイドさんがシーツを干す姿。メイドさんの仕事風景を表すものとしてよくあるワンカットシーンだ

 絵にならないわけがない。

 まあ、それがお金持ちの屋敷だったら完璧なんだけど。

「ただ仕事をしている様が絵になるなんて私にはあまり理解できないけど」

「メイドのことを知らないとそうなるよな。俺はアニメとかが好きだからその辺のイメージがあるからさ」

「私はアニメとか見ないからその辺はわからないわね」

「つばめがメイド服を着ているからそう思うんだけど、私服姿だったらつばめでも理解ができる絵になるよ」

「私でもわかりやすい絵?」

「家事をしている奥さん」

「⁉︎」

 つばめが手に持っていた俺のシャツが地面に落ちた。

「また、いきなり何を言ってるのよ⁉︎」

 驚き、というか動揺しているような、そんな反応を見せる。

「だって慣れた手つきで洗濯物を干していたらそう見えてもおかしくないだろ」

「だ、だからってそういうのを容易くいうんじゃないわよ!」

「じゃ、じゃあ……あんたは…だ、だ、旦那さんってワケ………?」

「俺がか?どっちかっていうと何もしない子供じゃないか?」

「………………」

 あれ?俺変なこと言ったか?

 すごいわかりやすくつばめの目が死んでるんだけど

さっきまで目に光があったのに、その光が消えている。

 俺がドン引きするようなことを口にしてしまったかのような反応をしているじゃんよ。

「俺変なこと言ってないよね……………」

「そうね……………行ってないわよ…………」

「歯切れ悪くない?」

「別に…………全く………この幼馴染ときたら」

「何か言ったか?」

「何も言ってないわよ!」

 何か言っていた気がするんだけどな。

 気のせいか。

つばめは洗濯物を干す作業を続ける。

地面に置いた洗濯籠から洗濯物を取り出す。その時につばめはスカートの裾が地面につきそうになるところをギリギリ触れないようにして洗濯物を取り出していた。

「メイド服って動きにくかったりする?」

「そう見えるの?」

「動きにくそうというか、気にしてるように見える」

「そうね。外の時は裾が地面につかないように意識はしてるわね」

 やっぱり。

「でもそれぐらいね。それ以外はそうでもないよ」

「そうなのか」

「家で慣れるためにメイド服を着た状態で家事していたから、今はもう慣れたわ」

 メイド服で動き慣れるために事前準備をしっかりしていたのか。

 真面目だな。

「ただお風呂場の掃除をするときは困るかな。スカートの丈が長いから濡れそうになる」

「その時はどうするんだ?」

「流石にメイド服を脱ぐ」

「脱いだ状態で掃除するのか…………?」

「下着姿じゃないから!私服姿だから!」

「それはそうだよな………」

 思わず下着姿になったものだと思ってしまった。

 なんせつばめが家の中で私服を着ている印象がなくて。

 そもそも持ってきているとも思ってもいなかった。

「変な想像しないでくれる?それこそセクハラだってさっき言ったわよね」

「ごめん」

 怒られてしまった。

 反論の余地なし。下着姿で掃除をしているなんて考えた時点でアウトだ。

 幼馴染といえどもセクハラだよ。

 自分の軽はずみさにしゅんとしてしまう。

「そんなに凹む必要はないけど……」

 つばめはフォローの言葉をかけてくれたが、「そうか」とはならない。

女の子にガチで怒られるのは慣れていないんだよ。

 セクハラ関係で怒られるのは尚更だよ。

「一応聞くけど、他の女の子にもそんな変なこと言ってるんじゃないわよね」

「言っていないよ」

「私以外にそんなこと言ったら本当にダメだから」

「つばめにも言ったらダメだろ」

「私はあんたに言われるのは多少なり耐性があるのよ。幼馴染だからある程度許容できるの。でも赤の他人の人だと許容なんてできないでしょ」

「できる人いるかもしれないだろ」

「いない!絶対にいない!」

「お、おお……」

 断言するほどか。

「さっきも言ったけど幼馴染兼主人がセクハラ問題を起こすなんて嫌なのよ」

「その時は、俺を放っておいてくれたらいいから」

「そういうわけにもいかないでしょうが」

「学校で幼馴染の関係を知っている人は鷹人とかごく僅かの人だけだ。俺が仮にセクハラ問題起こしたとしても、つばめに火の粉が飛ぶことはないよ」

「彼がバラさないとは限らないでしょ」

「あいつは大丈夫だよ。ちょっとチャラいけど、口は硬い方だよ」

「どうかしらね」

 つばめのいう通りだよな。

 長い付き合いだから多少のことは受け入れ態勢が作られるけど、それなりの関係にしかない人だと気持ち悪いとか、セクハラとか思われるよな。

 気をつけないとな。

 つばめは再び洗濯物干しを再開する。

「なあ、つばめ」

「何?」

「つばめって家事得意だったの?」

「またいきなりな質問ね」

「いきなりメイドになっても仕事ができなかったら意味ないじゃん。それなりにスキルを持っていないとできないだろ」

「特別得意じゃなかったけど、人並みにはできていたかな」

「うちみたいに親がいないわけじゃないのにすごいな」

「と言っても仕事を受けるって決まった時から練習したわよ」

「え、それも練習したのかよ」

「幼馴染とはいえ人に食べてもらうのよ。変なもの食べてもらうわけにはいかないじゃないの。ましてやそこにお金が絡んでくるんだから、美味しいものは作れるようにならないと」

 つばめの真面目さには感心するよ。

 仕事だといえ、相手は幼馴染だ。適当に手を抜いてもいいはずなのにそんなことを微塵も考えていない。

 それどころか、まずいものを食べさせないように腕を磨く。

 貴島つばめという人間性が出ている。

 いいやつだよ。

「真面目ですごいよ。つばめは」

「それはどうも」

 洗濯物を全て干し終わったつばめはこちらへと引き上げてくる。

「少し早いけど、お昼にしましょうか」

「そうだな」

「では、作ってきますのでしばしお待ちを」

「美味しいのを楽しみにしてるよ」

「任せて」

 そういうと玄関側から家の中へと戻っていった。

 その際ほのかに口角が上がっていたような気がする。

 なんでだろうな。

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