第3,5話 私がメイドになった理由
1年の三学期。期末テストが少しずつ近づきつつある1月の後半。
机に向かいながら、私は今日の授業の復習と明日の授業の予習をしていた。
黙々と粛々と励んでいた。
そうしている中、動かしていた手を止めた。
そして、私はため息をついた。
「全然進展しない…………」
進展しないと言うのは、勉強ではなくて恋愛的なものだ。
予習・復讐をしていたが、その半分ぐらいしか頭に入ってらず、頭の中の大部分では色恋のことを占めていた。
相手は内田司。私の幼馴染。
小さい頃から一緒に過ごしていて、たくさんの時間を過ごしてきた。人と話すのが苦手な私が気兼ねなく話せた数少ない人だった。特に男の子となれば、司しかいなかった。
そうなると異性として好きになっていく。
しかし、中学校に入ってからあからさまに接する機会が減った。
司が部活をし始めたと言うせいもあるが、人と会話をするのが苦手な私にさらに羞恥心なるものが生まれてきて、男の子と話すのが恥ずかしくなっていた。
そのせいでこれまで話せていたのに、一気に話す機会は減り、学年が上がるにつれてさらに減っていく。
高校に入ってからもその状況は変わらない。
たまに向こうから話しかけてきてくれるけど、自分の行為が本人と周りにバレたくないという羞恥心で塩対応をしてしまう。
ダメだ、ダメだ、とわかっているけど、どうしてもそうなってしまう。
このままじゃあ私は何もしないまま、司が他の人のものになってしまう。
それは避けたい。なんとしてでも避けたい。
でも学校だと周りに人がいて、話せない。
かといって司の家に行くと言っても、いく理由がない。
「はあ〜本当にどうしよう」
勉強してても頭は痛くならないのに、こう言うことを考えると頭が痛くなるな。
コンコン
部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
私の入室許可を得てから、ノックの主が入ってきた。
お母さんだった。
「どうしたの?何か用事?」
お母さんは用事がない限り部屋にはやってこない。部屋にやってくると言うことは何かしら用事があることになる。
「つばめ。電話よ」
「電話?それお母さんのスマホだよ」
「私の知り合いがあなたに用事があるのよ」
「お母さんの知り合いが?」
「とにかく出て」
訳もわからずに電話を押し付けられる。
ここで駄々をこねても相手に悪いと思い、とりあえず電話を受け取る。
「もしもし?」
『やっほ。つばめちゃん元気〜?』
電話越しに聞こえてきた声は聞き慣れた声だ。
「その声はおばさん?」
電話の主は司のお母さんからだった。
『ごめんね。忙しかった?』
「いえ。気にしませんから。それよりもどうしたんですか」
『いや〜ちょっとね。相談があってね』
「相談ですか?」
『相談というか、お願いというか』
『つばめちゃんはアルバイトに興味ない?』
「アルバイトですか………」
まさかのお願いだった。
おばさんからアルバイトの誘いを受けるなんて思わなかった。
「どう言うバイトですか」
接客とかになると私は人当たりがいい性格ではないので難しい。
できなくはないけど、相手の印象が悪い。仕事内容によっては断らないといけない。
じゃないとおばさんに迷惑がかかる。
『それなんだけど、うちで働いてくれない?』
「うちでっておばさんが働いているところですか?でもおばさんたちは今海外にいるはずですよね」
『働いてもらうのはうち。我が家。私の可愛い息子が一人で住んでる家』
「そこで何をすれば?」
『端的にいうと家政婦かな。ご飯とか、掃除とか、洗濯とか』
「司だってそれなりにできるんじゃあ……」
『それができないのよ。できないというか部活で忙しいから家のことを疎かになってしまっていてね。この前帰った時なんてまあ、酷かったわよ。きちんと掃除はされていないし、洋服やタオルも雑に洗濯してるし。何より食事が既製品に偏って他のよ』
『成長期真っ只中の男子高校生で、バリバリ部活をしているのにそんな食事をしていたら身長も伸びないし、筋肉もつかないってのよ』
「だから私が作れと」
『そういうこと』
「で、でも、私はそんなに上手じゃないですよ」
『絵見ちゃん(つばめのお母さん)に教えて貰えば大丈夫よ』
「いやでもおばさんが作る料理と味は違うと思いますよ」
『そんなの気にしなくていいって。美味しかったら文句は言わないから』
美味しい料理を作れるかどうかが不安なんだけど。
『それに司の胃袋を掴んでおくことも大事でしょ?』
「⁉︎」
いきなりとんでもなことを言われて動揺してしまう。
「な、な、な、な、な、何をいきなり言うんですか⁉︎」
おばさんって司に対する好意知ってたっけ⁉︎
そんなこと話した覚え無いんだけど⁉︎
『え?だってつばめちゃんって司のこと好きじゃないの?』
「いや、えっと、そんなことはないです!ないです!」
また一目散に否定してしまった。
そんことないのに。あっているのに否定してしまった。
『うちの息子はそんなに魅力がないと………』
「あああ…そんなつもりで言ったんじゃなくてですね、えっとその………」
「はい……………」
『それなら問題ないね』
「でもですね……」
『中々奥手のつばめちゃんのことだから、話す機会も進学するにつれて減ってきているんでしょ。それでどうしようかなってずっと悩んでるんだよね。話しかけたらそれでいいんだけど、周りに人がいるからそんな勇気も中々出ないんだよね』
「な、なんでそんなことを………」
『絵見ちゃんから聞いた』
「お母さん⁉︎」
おばさんに告げ口したお母さんはすぐ隣で親指を立てていた。
何がグッとなの?
それとも仕事してやったわよ、的な意味なの?
『家で2人っきりになれば必然的に話す機会も時間も得られるよ』
「それはそうなんですけど……」
『つばめちゃん。うちの息子は鈍感もいいところの朴念仁よ。積極的に行かないと気持ちは伝わらないわよ』
司は鈍感なところがかなりある。
よく言えば常識人で、理性的なのだけど、考えや本質がわからない面がある。
『でしょ。それにどうも息子はつばめちゃんを恋愛対象として見てる気がしないのよね。幼馴染ゆえの近すぎて意識されていないというか』
「それもなんとなくわかります…………」
『だからこう言う機会を生かしてアタックしていかないと』
「確かに、そうですね」
『可愛さを全面的に押し出すよりも、家庭的な面を見せてアタックする方が息子には有効だと思うのよ。だからこういう仕事と名打って違和感なく家庭的な面を見せる。これによって息子を落とせるはずよ』
ごもっともな意見だ。
司からは幼馴染として意識されない。かつ、私の羞恥心のせいで話すことすらできていない。
この状況を打破するにはおばさんの提案は最適な方法かもしれない。
『私としては今すぐ内田家に永久就職してもらっても構わないんだけどね』
「え、いや。そ、それは流石に早すぎると言いますか………まだ時期尚早と言いますか………」
そう言うのはちゃんと恋人としての時間を過ごしてからというか……。
恋人としての関係を楽しんでから、家族となりたいというか……。
『どうする?やらないのならそれでも大丈夫だよ』
私は覚悟を決める。
「や、やります…」
この提案は絶好の機会だ。これを逃す手はない。
『ありがとうね。あ、ちなみに服装はメイド服だから』
「え?メイド服ですか?」
『そう言うことだからよろしくね〜』
「ど、どう言うことですか⁉︎」
『え?家政婦と言ったらメイドが常識でしょ?それに普段着で息子は動かない。だとすればメイドのような非現実的な面で攻めていくのも必要よ』
「いや、そうかもしれませんけど………」
『そう言うわけで頑張ってね』
「あ、ちょっと、おばさん?」
切られてしまった。
「電話終わった?」
「お母さん、色々喋ったんだ………」
「だっていつまで経っても進展しないし、素直になれない愚痴をずっと聞かされのも疲れるのよ」
「うぐっ!」
返す言葉もない。
「諸々必要なものは送ってくれるって」
「わかった」
「しばらくは修行ね」
「うん…………」
「そう言うわけで花嫁の先輩として一つアドバイスしてあげる」
「花嫁になるつもりはまだないんだけど」
「仁美ちゃんのことをおばさんと言うのは良くないわね。これからはちゃんとお義母さんと呼ぶようにしないと」
「は、早いって!」
「いずれ呼ぶことになるんだから、今のうちに慣れておかないと」
「だから本当に早いって」
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