第3話 女の人って何するかわからないよな
つばめが帰ってから、俺はすぐに母親に電話をかけた。
「もしもし、母さん?」
『あら、司おはよう』
両親はニューヨークに在住しており、時差はおよそ14時間になる。日本時間が今、夜の9時なので、向こうは朝の7時となる。
そのため向こうからの挨拶が『おはよう』になる。
これには中々慣れない。
『こんな時間から電話をしてくるなんてね。どうしたのよ?』
「こんな時間はそっちだろ。こっちは夜の9時で電話をかけるのは普通の時間だ」
『こっちは朝なのよ?』
「知ったことかよ」
『ひどいわね』
こっちにいる時は朝の7時に起きてただろ。
『それでどうしたのよ。司がわざわざ電話をしてくるなんて珍しいじゃないの』
「電話かけてきた理由わかって言ってんだろ」
『理由?お母さんとしては、つばめちゃんがうちのメイドさんになったことぐらいしか心当たりないんだけど』
「それだよ」
母親が俺がつばめがメイドになったことに驚いて、電話をかけてくると言うことを予想していたようだ。
「いきなりあんなことされてびっくりしたんだよ。そういうことだったら事前に言ってくれててもよかっただろ」
『言ったら、ドッキリにならないじゃないの』
ドッキリってな……。至極当たり前のような口調で言うけど、幼馴染がいきなりメイドとして働くのはドッキリ以上にびっくりしたぞ。
まだメイド喫茶で働いていた方が、普通に驚ける。
『おおよその経緯はつばめちゃんからは聞いてるんでしょ』
「ああ。俺がこっちでだらしないからだろ」
『お正月に帰ってきた時の悲惨さは今でも忘れないわよ』
「そんなに悪くはなかっただろ。綺麗好きの母さんから見たらやばかったかもしれないけどさ」
『そうよ。それにバリバリ部活をしている高校生に家のこと全てしっかりやらせるのは難しいと思ったの。疲れているのに、炊事、掃除、洗濯をさせるのは親としては酷と思ったの』
だったら父親について行かないでくれよ、と言いたかったが、喉元で留めた。
「だとしてもつばめじゃなくてもいいだろ」
『つばめちゃんは家事全般できるじゃない。うちに泊まりにきているときはあんたと違って積極的にお手伝いしてもらっていたからその時に色々と教えたのもあってね。だからつばめちゃんだとうちの事をと諸々わかってて、手っ取り早いと思ったのよ』
「それにしたってな………」
『何?メイド服を着ているつばめちゃんに性的な欲情しちゃったの?』
「してねぇよ」
何をいきなり言い出してんだよ。
『頭の中で無理やり犯してることを想像してるんじゃないの?それはまだいいとしても視姦してるんじゃないの?母さんはあんたを性犯罪者に育てた覚えはないよ』
「安心してくれ。俺もあんたを犯罪者の息子にさせるような親不孝行者じゃない」
幼馴染に対してそんなことができるほど俺は肉食でもないっての。
『つばめちゃんに何かしたら、許さないから。すぐに警察に突き出すから』
「そうしてくれよ」
『あんたがつばめちゃんに犯されても何もしないけど。どうでもいいんだけど』
「母さん……俺とつばめの序列を同列にしてないなか?なんなら俺よりも序列上にしていないか?」
『当たり前でしょ。つばめちゃんの方が守ってあげないと。あんたは肉体的にも精神的にも頑丈だから何かあってもある程度大丈夫でしょ』
つばめは女の子だから俺よりも守らないといけないと思うのは仕方がないとしてだよ。
でも自分の息子より序列が上ってどう言う事だよ。
命かけて俺をこの世に生み出した息子よりもお隣の娘さんの方が序列を上にしているって意味わからない。
後、俺がつばめに襲われても何も思わないってのもどうかしてる。
今はジェンダーレスの時代だぞ。男が犯されても問題になる時代だぞ。
『それにつばめちゃんがそんな事したら、結婚すればいいだけの話だし』
「俺の意志を尊重してくれないのか?」
『一向にモテる匂いがないあんたにつばめちゃんほどの子が好意を寄せていたら、親としては何も批判も否定もしないわよ。むしろあの子は常々娘にしたいと思ってたし』
ダメだ、この人。ネジが一個外れているどころか、3つほど外れていたようだ。
『とにかくつばめちゃんがお世話してくれるから、お世話になりなさいよ』
「ありがたくそうさせてもらうよ」
『性的なサービスは仕事内容に含まれていないから、その辺は頭に叩き込んでおきなさい。いくら思春期の男子だからといって、間違いはダメよ』
「言われなくてもわかってる。」
『一人でする時は、つばめちゃんがいない時にしなさい』
「そのアドバイスいらねぇよ!」
『した後はちゃんと換気しなさいよ』
「だからいらねぇって言ってんだろ!その忠告は!」
『アハハハハ!』
朝っぱらそんなことを平気で口にできるものかよ。
『じゃあ、こっちも忙しいから。電話切るわよ』
「ああ」
母親は電話を切った。
もっと経緯は聞きたかったが、それを答えてくれることはなかった。
そしてしっかりと釘を刺された。
変なことするかってんだよ。
幼馴染だぞ。
そんな目で見てないっての。
そんな経緯があって、つばめがメイドとして働いているということだ。
改めて振り返ってみるとヤバいな。
幼馴染が晩御飯を作ったり、掃除をしてくれる時点でヤバいのに、メイドとしてしてもらっているというのはとんでもないことだ。
アニメを見たりするが、二次元で幼馴染をもつ男主人公でもこんな事なかったんじゃないか。
リアルが二次元を通り越したか。
「さっきからずっと黙ってるけど、どうしたのよ」
「いや。つばめがメイドになった初日の事を振りかってた」
「何それ」
「それよりも早く食べたら?冷めるわよ」
「そうだな。つばめの美味しい晩御飯は温かいうちに食べないと勿体無いよな」
「‼︎」
ガタッ!と椅子が急に動くような音がした。
この場には俺とつばめしか椅子に座っていない。俺の椅子でそんな音は出ていないから、必然的につばめの方の椅子が動いたことになる。
「どうした?」
「べ、別に………なんでもないけど」
そう呟いた彼女はお味噌汁を啜った。
「そうか?」
何か言いたそうだったが、問いただすと絶対に答えないタイプだし、変に避けられるからやめておくか。
つばめに釣られる形で俺も味噌汁を口にする。
「やっぱり、つばめの作る味噌汁って美味しいよな」
「それは……どうも」
「うん。本当に毎日飲みたいよ」
「‼︎」
「つばめは俺が飽きないように毎日じゃないんだろうけど、本当に毎日でも飽きないぐらい美味しいんだよ」
「な、な、な、何言っているのよ⁉︎」
何やら慌てた様子のつばめだった。
「何って事実を言ったんだけど」
実際に毎日飲みたいほど美味しい。本当に美味しいんだ。
「そういう変なお世辞はいらないから」
「お世辞じゃないって。本当に心から思ったんだよ」
「‼︎」
その瞬間俺はつばめからスネを蹴られた。
「いった!なんで?」
「そっちが変なこと言うからよ!」
「俺変なこと言った⁉︎」
「言ったわよ!とんでもなくね!」
俺何か変なこと言ったかよ。
事実を言っただけなのに。
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