第2話 家に帰ったら幼馴染がメイドの格好をして料理していたよ

 どうして幼馴染の女の子がメイドとしてうちで働いているのか。

 それは高校二年生の新学期が始まる前、今からちょうど二週間前に遡る。

 その日は俺が所属している野球部の練習を終えて、夕方に家に帰った。春休み期間だが、その日の練習はお昼からしかグラウンドが使えなかったため、夕方二しか終わらなかった。

「あ〜疲れた………」

 うちの学校の野球部は公立高校だが、比較的実績のある学校で、全員が甲子園んを目指していることもあり、練習もそれにふさわしい内容になっている。

 長い時間の練習をするわけではない。グラウンドをサッカー部や陸上部との併用なので練習時間は限られるからだ。だから練習時間が短い分負荷の大きな練習を行うのがうちの部活の練習方法だ。

 ダラダラと練習するよりはいいのだが、その分襲ってくる疲労は計り知れない。

 学校で一日中授業を受けているよりも圧倒的に疲労度は大きい。

 しかも何が辛いって家に帰っても親がいないことだ。

 親がいないというのは、親に捨てられたとか、蒸発してしまったとかネガティブな理由ではなくて、仕事の関係で海外に行ってるからだ。

 父親の海外赴任に母親がついて行った形だ。

 ついてくるか?と聞かれたけど、転校したくないし、何よりこの学校で野球をしたかったから日本に残ることにした。

 それが辛かった。家のことを全部自分一人でしないといけない。

 学校と部活でヘロヘロになったからまともに家のことなんてできない。

 両親が家に帰ってくるたびに、軽く口を叩かれてしまう。

 わかってはいるんだけど、体力が残っていないからどうしても家のことは疎かになる。

 野球をしているから、食事ぐらいはちゃんとしようと思って、最初の方は頑張って作っていたけど、最近はずっとお米だけ自分で炊いて、あとはスーパーでお惣菜を買って食べる家たちが定着している。

 栄養バランスも考えないといけないが、そんな余裕もない。

 今日もスーパーで惣菜を買ってきたから、これでご飯を食べる。

「誰か作ってくれるとありがたいんだけどな」

 ありもしない願望を口にする。

 できれば、女の子がいいけど、そんなことを頼めるような人はいない。

 彼女もいない俺のただの願望だ。

「はあ〜」

 ため息を吐いていると家に帰ってきた。

 ドアを開けようと鍵穴に鍵を入れて回す。

「あれ?開いてる?」 

 家の扉が開いていた。

 朝家を出る時に鍵をかけわすれたかな?

 そ〜っとドアを開けた。

 もしかしたら泥棒が侵入しているのかもしれない。警戒しておかないと。

「いい匂いがする………」

 家の中に入った瞬間に俺の鼻口を美味しそうな匂いが刺激してきた。

 もしかして母さんか父さんが帰ってきたのか?

 でも帰ってくる時はいつも連絡が入るはずだ。

 しかし、両親と思わしき靴は限界には見受けられない。

 でも現在進行形で料理のにおいはしている。

 誰が作っているんだ?

 警戒心はさらに強まる。

 まさか泥棒がお腹減ったから、うちにある食材で適当に料理を作っているとかないよな。そんなことあったら別の意味で怖いぞ。人の家で何堂々と料理してるんだよって意味のわからないツッコミをしないといけなくなる。

 恐る恐る廊下を歩き、キッチンとリビングに通じる扉を開けた。

 リビングの方には誰かがいる様子はない。

 リビングの奥にキッチンがあるので、音を立てないようにしながらキッチンの方を覗く。

「えっ?」 

そこにあった光景に俺は目を疑った。

 俺の家のキッチンに人がいて、楽しそうに鼻歌を歌いながら料理を作っていた。これが美味しそうな匂いを醸し出してたのはすぐにわかった。

 キッチンに立っている人間は誰なのかも大いに気になる。 

 しかし、驚いたのはそこの部分ではなく、その人の格好だ。

 メイド服を着用しているのだ。

 なんでうちにメイドさんが料理を作っているんだ?

 メイドでも雇ったってのか? 

 だったらその連絡も入るだろ。

 第一うちにメイドさんを雇うほどの金はあるのかよ。海外赴任がある職業だけど、それでも雇うような余裕はないはずだ。家のローンだってあるんだしさ。

 マジで誰なんだよ。

 怖くて、声をかけられない。

 どうしよう。この状況はどうしたらいいんだろうか。

 そうこうしていると、メイドさんがこちらを振り向いた。

「あ、やっと帰ってきたんだ」

 その声と、その顔に俺は見覚えがあった。

 見覚えどころか、見慣れてい顔だ。

 黒くて綺麗な髪に、整った顔立ち、年相応の垢抜け感がある感じ。何より両目についている涙ぼくろが彼女の特徴だ。

「何?何か私の顔についてるの?」

「いや、ついてるも何も何してるんだよ、つばめ…………」

 突如としてうちにいたのは俺の幼馴染の貴島つばめだった。

「何って夕食の準備だけど……?」

「いや、それは見たらわかるけど、なんでつばめがメイド服を着てうちで夕食を作ってるのかを聞いてるんだけど」

「聞いてないの?」

「何を?」

「私、この家のメイドになったの」

「………………はい?」

 自分の耳を疑ってしまった。

 何?つばめは今、うちのメイドになったって言ったのか?

 何かの冗談か?

 それともなんか変な夢でも見てるのか、俺?

「家を追い出されたのか?」

「なんでそうなるのよ」

「だってそれぐらいしか考えられないんだよ」

「普通に仕事としてよ」

「仕事?アルバイトか」

「そんなところ。司のお母さんにお願いされたのよ」

「なんでまた……」

「あんたがあまりにも家のことが疎かになっていて、見ていられなくなったんだって。それにいつも既製品のものばかり食べてそうだから、作ってあげてって言われたのよ」

 俺の手に持っている袋を指差した。

 確かに。ほとんど既製品ばかりだよ。

「それでつばめは了承したのか?」

「お給料は奮発してくれるらしいし、司のお母さんにはお世話にもなってるからね。まあ、仕方なくよ。仕方なくね。だから勘違いしないでよ」

 勘違いも何も驚きの方が圧倒的に大きいっての。

 幼馴染がいきなりメイド服を着ているのだけですごいことだってのに、その人が本当のメイドさんになったんだぞ。

 そっちの方が驚きだろ。 

 それに給料がいいからって言って、幼馴染の家でメイドとして働くことを了承するか?

 全く知らない人のところで働くよりかはいいかもしれないが、むしろ知っている人のところで働く方が働きづらい気がするんだがな。

「もう少し時間かかるから、先にお風呂に入ってきたら?お湯は沸かしてあるから。洗濯もするから、洗濯物も出しておいて…………下着は自分で洗いなさいよ………」

 言われなくても流石に下着は洗ってもらわないっての。

 女の子に下着を洗ってもらうなんて趣味は俺にはない。

「じゃあ、お風呂に入ってくるよ」

「そうして」

 荷物を部屋に置いて着替えを持って脱衣所に行くと、すでに着替えは用意されていた。流石に下着はなかった。

あったら逆に申し訳ないから、なくてありがたかった。

 練習服などを洗濯に出してから、俺は風呂に入った。

 なんかいつも以上に気持ちいいな。

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