第48話 もう一つのエピローグ

 時計の針の音が聞こえてくるほど、静かな部屋だ。

 

 人によっては苦手かもしれないが、けれども私にはこれぐらい静かな方が落ち着く自分の家。

  

 何もかもわからないまま始めた一人暮らしで、引っ越してきたばかりの頃はこの部屋に家具なんて何一つなかった。

 けれど今はそんな部屋にお洒落なテーブルセットと、そして……。


「こんな感じでいいかしら」


 私はそんなひとりごとを呟くと、目の前の棚に飾った人形を静かに見つめた。


 猿の形をかたどったそれは、不恰好に少し右腕が歪んでしまっている。


 それが彼曰く徹夜で頑張った努力の証らしいのだから、私はついクスリと笑ってしまう。


「こう見てみると、何だがあいつにそっくりな顔をしてるわね」


 目の前に飾った人形を見つめながらそんなことを呟いた。

 頭の中に浮かぶのは、気の抜けたお猿とそっくりな顔をしたクラスメイトの姿。


 あんな人に出会ったのは初めてだった。


 こんな私に対してもいつも口うるさく関わってきて、事あるごとに文句を言ってくる。そのくせ最後まで人のことは見捨てないほどのお節介焼き。


 まさか私なんかの為に、あの時お父さんにまで頭を下げるなんて思いもよらなかった。


 自分とは真逆のその性格にいつも驚かされてしまうけれど、それがあいつの、彼の良いところなのかもしれない。

  

 そんなことを考えていた私は、もう一度部屋の中をぐるりと見回してみた。

 夏木さんや水無瀬さんの部屋に比べたらまだまだ殺風景だけれど、これからこの場所にどんな家具を揃えていこうか。


 ――インテリアには人を幸せにする力がある。


 ふと頭の中に、彼の口癖が浮かぶ。


 まだその言葉の意味も、幸せなんて感情もよくわからないけれど、たしかにあのお店で働くようになってから色んなことが変わってきた。


 だからこそ、今はほんの少しだけ思う。


 萩原くんの言う通り、インテリアにはそんな不思議な魅力があるのかもしれないと。

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ラブコメはコーディネートをした後で。 もちお @isshi

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