第39話 メンズ会

 ぴしゃぴしゃパシャパシャと楽しげな音と共に煌びやかな水しぶきが飛んでいる。


 そんな光景を目の前にして、俺は川辺に置いたチェアに座りながら冷めた表情を浮かべている。


「あのさ……川遊びするなんて聞いてなかったんですけど?」


 俺は隣に座っている海パンにTシャツ姿の快人に向かって尋ねた。


「いやー、だって翔太に言ったら絶対嫌がってたやろ」


「嫌がるも何も、よくこのメンバーでそんな発想ができたなお前……」


 呆れ返った俺の言葉に、「いやいやこのメンバーやからこそ企画しなアカンやろ」と何故かドヤ顔でそんなことを言ってくる相手。

 そしてその視線は川の中で遊んでいる女の子たちへと向けられる。


「見てみいあの楽園みたいな光景を。男として生まれてきたんやったら女の子の水着姿を拝めるとか本望やろ」


「いやまあ……」


 突然そんなことを言ってきた快人に対して、俺はついぎこちない口調で声を漏らす。

 仲間外れにされた俺とは違い、事前に川遊びをすることを知っていたメンバーたちは濡れても支障がないように各自水着を用意していたのだった。

 ただ水着といってもさすがに真夏ではないので茜も水無瀬さんも快人と同じようにTシャツを着ている。


 しかしこう見てみると……。


 俺は改めてそんなことを思うと、もう一度チラリと川の方を見てみる。


 そこに映るのは、さっきから飽きもせずに楽しそうに水遊びをしている二人の女の子。


 クラスのアイドル水無瀬さんは、その純粋さと明るさを表現したかのような白色に可愛らしいフリルがあしらわれた水着を身につけていて、濡れてしまったTシャツのせいでそのたわわ……いや、豊満さを感じさせる身体のラインまでピッタリと確認できてしまう。


 そしてそんな水無瀬さんと乙女チックに水の掛け合いをしている茜といえば、彼女は彼女で根っからの勝ち気さを表現するかのように、今回は赤色の水着をチョイスしたようだ。

 幼なじみでほぼ毎日顔を見合わせていることもあってあまり意識しなかったが、こうやって見てみると俺が思った以上に彼女も色んなものが立派に成長していたようだ。


 ちなみにもう一人のメンバーである白峰はというと、さっきから少し離れた川辺の場所で日傘をパラソル代わりにして読書をしていた。……ほんとあの子、どこに来てもマイペースですよね。


 そんな余計な実況を脳内でしていると、「ほな練習のために」と意味不明なことを言い出した快人が何故か鞄から液晶タブレットを取り出した。


「お前、まさかこの場所で絵を描くつもりなのかよ?」


「当たり前やろ。将来アニメーターになる俺はいつでも腕を磨いとかなアカンねん」


「いやこの状況じゃなかったらまともに聞こえてたのにな……」


 俺は友人の発言に対して呆れた口調でそう答えた。

 今の言葉からわかるように、コイツの将来の夢はアニメーターになることらしい。そしてそれを豪語するほどには、快人の描く絵はたしかに上手かったりする。……まあ主にアニメかラノベキャラクターばっかりだけど。


「やっぱり若いっていいもんだな! 見ていて清々しいぞ」


 俺と快人が二人で話していると、そんな言葉と共に後ろから現れたのは親父だった。

 そして親父も俺たちと一緒にくつろぐつもりなのか、水無瀬さんに譲っていたMOG501を隣に設置してドカッと座ってきた。


 またややこしい人が増えたな……。


 自分の父親に向かってついそんなことを思ってしまった直後だった。

 隣でタブレットにペンを走らせている快人が言う。


「翔太、プリンはプリンでも吸うことしかできないプリンはなんやと思う?」


 液晶画面に水無瀬さんの胸元を堂々と描きながら、そんなバカげた質問を飛ばしてくる相手。

さすがにこれはどうやって叱るべきかと頭を悩ませていたら、「わははっ」と何故か親父が笑い出した。


「翔太はまだまだお子様だな。父さんはちゃーんと答えを知ってるぞ」


「おいっ! 実の息子がいる前で何てこと言いやがる!」


 怒りを露わにする俺とは反対に、「さっすが翔太のおじさん!」と何故かハイタッチを交わす二人。


 ……いやほんと、マジでこの二人は川に落ちてくれればいいと思います。

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