ラブコメはコーディネートをした後で。

第35話 定番の夕食

　水無瀬さんの家に訪れて無事にミッションが完了したその日の夜。

　コンシェルジュの店の上、2階のダイニングルームではいつもの4人が顔を並べて晩飯を食べていた。

「「……」」

　いつもと同じ……いや、いつも以上に何やら険しいオーラを出して俺が作った麻婆豆腐を食べている茜と白峰。

　あのー、なんでこの二人のほうがちょっとピリ辛モードになっちゃってるの？

　これはあんまり刺激をしない方がいいだろうなと思うと、俺は地蔵のごとく気配を消してスプーンを口元へと運ぶ。

　すると左斜め前に座っている親父が口を開いた。

「白峰ちゃんもだいぶ接客ができるようになってきたからそろそろリピーターのお客さんもつきそうだな」

　空気を読んでいるのかいないのか、親父が呑気な声でそんなことを言う。

「そうでしょうか？　正直まだまだ家具や雑貨の知識が乏しくてちゃんとした接客をできているとは思えません」

　親父の褒め言葉に対しても、白峰はいつもと変わらぬ口調でそんな返事をする。

　さすが努力家の彼女、誉められたからといってそう簡単には慢心しないらしい。それにこの前なんて、「木材のヤンカ硬さとブリネル硬さの違いってなに？」って俺でもよくわからないことをいきなり聞いてきたぐらいだしな。

　いっそ将来はそのまま木材博士にでもなればいいのに、なんてつい余計なことを考えながら麻婆豆腐を食べ進めていると親父が笑い声をあげる。

「はははっ、さすが翔太と違ってストイックだな！　でもまあ今の白峰ちゃんぐらいの知識があれば接客なんていくらでもできるから大丈夫だ」

「おい親父、間接的に俺のことをディスるなよ」

　バイトの子を褒めるくせに実の息子を評価してこない親父に対して俺はついジト目を向ける。

　すでに3本目に突入している缶ビールのせいで頭がやられてしまっているのだろう。ったく、これだから酒好きのおっさんは困るんだよな。

　なんてことを思っていると、今度は珍しく黙っていた茜が口を開く。

「まあでもウチからすればまだまだ鍛えなアカンところがたくさんあると思うけどな」

　たとえば愛想とか、と妙に強調した口調で白峰の苦手部分を指摘する幼なじみ。

　なんだよコイツら、やっぱりピリピリしてるじゃねーかよオイ。

　しーんと再び訪れた沈黙の中でそんなことを思っていると、気まずい俺たち三人を見て親父が再び口を開いた。

「まあ人にはそれぞれ得意不得意があるからなぁ。だから苦手なところはこれからゆっくり克服していけばいいさ」

　そう言って白峰のことを見ていた親父は、今度は茜の方をチラリと見る。

「それにお客さんに対してだけじゃなくて同じお店で働くスタッフに対しても愛想とコミュニケーションは大切だぞ」

「「……」」

　どうやら最初から空気はしっかりと読んでいたようで、笑顔で話す親父の言葉に茜と白峰の肩がピクリと動いた。

　スタッフとのコミニュケーションか……。

　俺は頭の中で親父の言葉を繰り返しながら二人の様子を伺う。

　たしかにお客さんにとって居心地の良いお店とは、そこで働くスタッフ同士のコミュニケーションも良かったりするものだ。

　酔っ払っているとはいえさすが親父だな、なんてことを感心していたら、親父が陽気な口調で再び口を開いた。

「よーしっ、だったら今週の日曜日は交流を深めるためにみんなでバーベキューにでも行ってみるか！」