第36話 いざ出発!
親父が狂言じみた発言をしたその週末の日曜日。
営業時間が始まっても珍しく『closed』の札が掛かりっぱなしになっているコンシェルジュの店内で、俺はデカいクーラーボックスを両手で持ちながらガラス扉へと向かっていた。
「遅い! アンタいつまで準備にてまどってんの?」
「ほんと計画性がないわね」
店の外に一歩出るや否や、すでに準備バッチリの二人が悪役令嬢のごとく俺のことを罵倒してきた。
「いやお前らな……」と呆れた声を漏らしながらそんな二人を見てみれば、茜はその活発さを表すかのようにシンプルな黒Tシャツにデニムの半パンというラフスタイルの出で立ち。
そして隣にいる白峰はというと、茜に対抗するかのように真っ白のワンピースに上品な花柄があしらわれた日笠を差している。……って、こいつ今日の目的がバーベキューだってことちゃんとわかってるよな?
お茶会にでも行くつもりなのか? と俺が白峰のことを凝視していると、今度は別の声が耳に届く。
「ごめんね萩原くん、バーベキューの準備任せちゃって」
「翔太、俺がリクエストしたマショマロももちろん持ってきたやんな?」
「……」
おいちょっと待て! と俺は思わず声を上げてしまった。
親父からの指示で今回のバーベキューに誘った水無瀬さんがこの場にいることはまあ良しとしよう。
しかしだ、何故その隣に快人までいるんだ?
「なんでお前がここにいるんだよっ!」
「つれへんこと言うなや、俺とお前の仲やろ」
本来であればこの場にいないはずの相手はヘラヘラとした態度でそう言うと、がしっと俺の肩を気安く組んできた。
おそらく水無瀬さんからバーベキューのことを聞いて飛び入り参加してきたのだろう。
なんでまたややこしい奴が参加することになってんだよ、と頭を抱えていたら、今度は茜が苛立った声音で言う。
「ハッキリ言うけど、ウチはアンタがくるのは反対したんやからな!」
「残念やったな夏木、こっちはちゃんと翔太のおっちゃんから許可もらってるからな」
関西弁でさっそくそんな言い合いを始める茜と快人。
「白峰ちゃんも、今日はよろしくお願いなっ」
「……」
フレンドリーな口調で話す快人に対して、白峰は黙ったまま心底嫌そうな視線を向けている。
俺はそんな三人を見てため息を吐き出すと、今度は水無瀬さんに向かって言葉を掛ける。
「ごめんな、なんか騒がしい感じになっちゃって」
「ううん、全然大丈夫だよ。むしろこれぐらい賑やかな方が楽しいしね!」
やっぱりこの子はええ子やなぁ、なんてことを考えていると水無瀬さんと目が合った瞬間、相手は何故か少し恥ずかしそうにしてふいっと目を逸らしてしまった。……あれ、俺なんか変なことでも言ったかな?
それとも今日の自分の格好がおかしいのかな、と不安になりながら自分の服装をチェックしていると、ブロロンとエンジン音を轟かせて俺たちの前に黒のハイエースが止まった。
「よしみんな、準備はバッチリか!?」
運転席から顔を出して、高校生以上にハイテンションな声でそんな第一声を飛ばしてくる親父。
こうして俺たちの予測不能な一日が始まってしまったのだった。
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