第34話 茜の思い出

 翔太がウチの隣に越してきたんは、たしか小学生に上がる少し前やったと思う。


 最初は頼りなさそうな男の子やな、ってぐらいの印象しかなかったけど、お母さん同士が仲良かったから毎日のように顔を合わす機会があった。


 ウチらとは違って標準語で話すし、笑いのツボもちょっと違う。ほんでもって妙にインテリアについて詳しい変なやつ。


 お店でも学校でも、こっちが聞いてもいないのに口を開けばインテリアのことばっかり話しとった。


 そのくせウチが学校の男子からちょっかい掛けられてたら「女の子をいじめるな!」なんて一丁前に助けに来てくれて、ウチはそんな自分が恥ずかしくて「アンタの助けなんかいらんわ!」なんて言い合いもしょっちゅうしとった。


 でも気づけば、そんな翔太とは一番よく遊ぶようになっとった。


 何より翔太のお母さんがめっちゃ良い人で、ウチがお店に行ったら「茜ちゃんおかえり!」ともう一人のお母さんみたいに迎えてくれていたからだ。


 だから翔太のお母さんが亡くなったって聞いた時、アイツのことが心配で心配でたまらんかった。


 あんなにいつもお母さんにべったりやった翔太のことやから、きっとショックが大きいやろうなって。


 案の定、翔太はその日を境に学校には来んようになった。


 クラスではいつも翔太の席だけが空席で、放課後や休みの日に会いに行ってもお店にもおらへん。


 おじさんに翔太に会いたいって頼んでも困ったような笑顔ではぐらかされるばっかりで、二階に閉じこもってる翔太とは挨拶一つ交わすことができひんような状態がずっと続いてた。


 それでもウチは、またいつもみたいに翔太が学校に来てくれるように毎日毎日会いに行った。それに少しでも元気になってもらえるようにって手紙も渡した。


 だからやっと翔太が学校に来てくれるようになった時、ほんまに嬉しかったし、その時に気づいたんや。


 アイツは能天気に見えるけどほんまは繊細で、辛いことがあっても人一倍強がりで何も言わん奴なんやって。


 だからそんなアイツには、インテリアのことがバカみたいに好きな翔太には、隣でおんなじように話せて支えてくれる相手が必要なんやってことを。

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