痴話喧嘩三味線
「も、もうモリシー、あなたとはやっていけないわ!」
感情を言葉に載せる事を忘れたような調子でユノノは声を張り上げる。
「何を言っているんだ、ユノノ。オレには君が必要なんだ。そんな事を言わないでおくれよ」
モリシーも負けじと声を張る。花の中の虫を見つめる大男の注意を引けているか、そこに気持ちを向けながら。
「そ、それはパーティの中に私がいれば便利って意味?」
「もちろん、キミはパーティにとって必要な存在だ。でも、それだけじゃない!」
「モリシー、あなたはギルドで受け付けのお嬢さんに私には見せない笑顔を送ったりしてるわ」
(なんだよそれ、打ち合わせと違うじゃないか)モリシーは小声でボソボソと投げかけて、「そ、そ、そんな事はしていない!」と真顔で叫んだ。
「嘘よ!受付のチェルシーちゃんにも、弓使いのエルザにもいつもあなたは熱い視線を送っているわ!」
(おいおい、さっきから何を言っているんだ。オレはどう合わせればいいんだよ?)冷や汗で一気に顔面を濡らしてモリシーは小声でユノノに訴える。そしてどうにか「チェルシーやエルザなど、気にとめた事もない!」と言った。
「じゃあ、猫熊亭のシャオリーちゃんは?」
(はぁ?)「気にとめた事もない!」
「武具屋の看板娘のケナちゃんは?」
(なんだよ、それ)「その名前を知ったのは今だ。興味がない!」
「青のクランのフェスティエさんはーーー?」
「知らーーーーん!!!」
ユノノとモリシーの声量は掛け合いの度に大きくなり、ついには絶叫となった。近くの木々に潜んでいたらしい小型の鳥の群れが一気に空に飛び立つ。ユノノとモリシーはぜえぜえと肩で息をしている。
「えーっと、モリシー、ユノノ、二人はいったい何をしてるんだ。オレはいったい何を見せられているんだ?」
極めて間延びした声がした。その大男の手からは花も虫も落ちている。そして一歩進めた彼の足に踏まれて虫型の魔物は『プキュ』と断末魔の声を上げた。
「「フェルナンデスーーー!!!」」
ユノノとモリシーは同時に正気を取り戻した仲間の名を叫んだ。
フェルナンデスは傷も痣も印もない自らの額を指先で搔いた。
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