作戦会議

「それのどこに問題が?」

 モリシーは平然と言う。

「ま、問題はないと言えばないんだけどさ」

 ため息まじりにユノノは言う。

「あの魔法陣の跡が額に刻まれてしまうのって、愚かで油断しがちな三流冒険者の証なのよ……」

「それはつまり?」

「そんな証を額に刻んでる冒険者のパーティメンバーもまた、愚かで油断しがちな三流冒険者、って見られるのよね……」

「それは、問題だな」

「問題よね」

「やっぱりこのバカ、ここに置いていかねぇ?」

「ホント、このバカ、どうしてやろうかしらね」

 ユノノとモリシーの視線をまるで気にする事なく、大男は虫型の魔物バルバルに熱い視線を送り続けている。


「じゃあ、正規の手順というのは?」

「一つは教会に連れて行って治療と祝福を授かるっていう方法」

「うん。まぁ、そうだろうな」

「それをしてもらう為に教会にしなきゃならないお布施の額は……」

 ユノノは近くに落ちていた木の枝で地面にその額を書き込む。

「うん。もちろん、却下だ。今、心の奥底で湧いた殺意が自分でも信じられない」

「もう一つは民間療法なんだけど……」

 沼の水面で小さな魚がチャポンと跳ねた。風が生み出す木々のざわめきと、何処かにいる獣や鳥類の鳴き声が聞こえているが、森は概ね静かだ。その中でユノノは途切れ途切れにたどたどしく説明し、モリシーは怪訝な顔をしては時折質問を織り交ぜつつもその説明を聞いている。


「そんな事で野生の魔法陣が消え……呪いが解けるのか?」

 真剣な顔でモリシーは確認する。

「こ、こ、これは、実績のある方法なのよ。ほら、お祭りなんかでも神や精霊に捧げる演劇ベースの舞踊があるじゃない?あれみたいなものなのよ」

 ユノノの発言は動揺を隠しきれていないが、モリシーはそこに疑問を抱かない。

「なるほど。そう説明されると納得がいくな。ふむ……、あのバカの注意を引きつつ、同時にこの土地にいる精霊にもアピールして、精霊たちの力を借りる、と」

「そ、そう。そうなのよ」

「それで、うん。オレとユノノが痴話喧嘩をあのバカに見せつける事がその第一歩と、そういう事なんだな?」

「そ、そう。そそそそうなのよ」

 モリシーに真剣でまっすぐな目を向けられたユノノは動揺を隠せない。

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