野生の魔法陣
「なぁ、ユノノ」
リーダーの男が魔法職の女に声をかける。
「このバカの額についているこの紋章のようなマークはなんだ?」
正気を失っている大男の額には銅貨ほどの大きさの模様が付いている。二重丸に大小の三角形を組み合わせた模様だ。それが焼き印のように皮膚の表面を僅かに凹ませて紋章のような模様を形作っている。
「あぁ、これは……、言うなれば野生の魔法陣ね。このうねうねと気持ちの悪い虫型の魔物が持っている本能であり、技術であり、呪いなのよ。遥か昔に人類はコイツを魔法技術体系の中に組み込んだんだけどね。このバカは不用意にこのつぼみを開いてしまって見事にそれに引っ掛かった、って訳よ」
「野生の、魔法陣? なんだその恐ろしすぎるモノは」
「人類の魔法はあらゆる方面の不思議な現象を解析する事で発展してきたんだから、魔物や野生の中に原初の魔法技術があって当たり前じゃない」
「そーゆーものなのか?」
「そーゆーものなのよ、モリシー」
ユノノは親しみを込めた口調でリーダーの男、モリシーに答える。
「メレディアたん、ハァハァ、デュフフフフ。そうだねー。そこにいる性悪女とヒョロガリが鬱陶しいよねー。どうにかして二人きりになれないかなぁデュフフフフ」
正気を失っている大男がおぼつかない滑舌で話す内容がユノノとモリシーの耳に否応なく入ってくる。
「このバカ、ホントに置いて行っちまうか」
「マジでそうしたいわ……」
二人は苛立ちを隠そうともしないが、その苛立ちが大男に伝わる事はない。彼にのみ見える幻覚と、彼にのみ聞こえる幻聴の中で彼は顔中の筋肉を弛緩させている。ユノノとモリシーの声は一切聞こえていない。
「でも、このまま放っておくと、あの虫型の魔物……バルバルっていうんだけどさ。バルバルの身体から今も霧状に発散され続けている麻酔効果のある体液であのバカは昏睡状態になるわ、いずれ。そうしたら、バルバルはあのバカの身体の中に入り込んで、あのバカの肉を食い散らかす事になる」
「こわっ!マジで?」
「うん。バルバルが今すぐにあのバカの肉を喰らおうとしないのは、麻酔効果が行き渡る前に痛みを与えてしまうと、正気に戻ったあのバカに捻り潰されるからよ」
「と、いう事は、なんだよ、あのバカを殴ってやれば正気を取り戻して万事オッケーなのかよ。簡単じゃないか」
「ま、そうなんだけど……」
「なにか、問題でもあるのか? 緊急事態だ。オレはあのバカを思いっきり殴る事に躊躇はしないぜ?」
「もちろん、それは構わないわ。でもね、正規の手順を踏まないであのバカを正気に戻すとさ……」
「うん?」
「あの額の野生の魔法陣、跡がくっきり残っちゃうのよね」
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