野生の魔法陣

ハヤシダノリカズ

妖精の繭

「通称“妖精のまゆ”……、そう呼ばれている大きな花のつぼみをオレはてのひらに乗せて、じるように閉じられたその先端に指先で触れた。すると、その捻じれはスルスルと解けていき、淡いピンクの絹の様な花弁はフワッと柔らかく開いた。そして、咲いたんだ。愛おしいオレの妖精、麗しのメレディアちゃんが、その花びらの中に。一糸まとわぬ姿で横たわっていたメレディアちゃんは目を開けると、自分が裸な事に気が付いて、すぐにオレの視線に気づいたさ。その時に小さく「キャッ」ってカワイイ声を上げたかと思うと手で胸や股を隠して「何見てんのよ!あっち向きなさいよ!」なんて強がっちゃってさ。オレはすぐに顔を背けて「あぁ、すまない。とりあえず、周りにある花びらを身に纏ったらどうだい」とアドバイスしたよ。そうしたら「ありがと」って照れたような口調で言ってさ。「アタシはメレディア。アンタは?」なんて聞いてきちゃってさぁ!」


「……だ、そうですよ。リーダー」

 と、一通りの説明を済ませたのは小柄な女。その目は鮮度が落ちて投げ売りされている魚のそれのようだ。野戦にも耐えうる無骨なローブを身に纏い、老木の枝で出来た杖を持っている彼女はこの冒険者パーティの魔法職といったところだろう。

「はーーー」

 リーダーと呼ばれた軽装の前衛職らしき細身の男は大きくため息をつく。彼らがいるのは森の中にある小さな沼のほとり、沼には巨大な盆のような植物の葉が無数に浮いている。

「ウホウホデュフデュフ言ってるようにしかオレには聞こえないが、そのバカはそう言ってるんだな?」

「えぇ。出来得る限り正確にお伝えしました。おかげでさぶいぼが今も収まりません。もう、コイツ、ここに置いて行きません?」

 掌の上の花に熱のこもった視線を送り鼻の下を伸ばしている大柄の男の横で、リーダーの男と魔法職の女はそう話す。

「そうだな、そうすっか」

「そういう訳にはいきませんよ。仲間を簡単に見捨てるパーティだと悪評が立ったら今後の活動に支障がでます」

「分かってるよ、冗談だ。……、ってか、置いて行こうって言ったのはそもそもオマエだろうが」

「そうでしたっけ?」

「……、ふぅ。あぁ、オマエはそういうヤツだよ、知ってる」

 そう言いながら、リーダーの男は腰かけていた倒木の幹から立ち上がり、そして、掌の上の花を見つめながらブツブツと言っている男の横に並び、その花の様子を伺う。

「ふむ……。コイツにはコレがカワイイ人型、女性の姿をした妖精に見えているんだな?」

 リーダーの男が指さすその花の真ん中には鋭い牙を剥きだしにして「キシャー!」とうなる骨のない親指のような生き物がうごめいている。

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