第4話 天使の羽根を探す

 放課後、イチが教室の窓から空を見ている。


「そんなに浮遊島が懐かしいのか?」

「は、はい、私は天使として地上に御加護を与える存在です」

「それが落下して今は何も出来ない少女となったのか?」


 その言葉にイチは目をそらす。どうやら、本当にただの少女になったらしい。


「川菜君、ここに居たか、迎えのメイドさんが来ているぞ」


 気まずい雰囲気の教室の中に麻紀さんが入ってくる。


「二人とも元気がないな、これを食べるといい」


 麻紀さんはポケットからチョコレート菓子を取り出す。早速、食べると口の中に甘い味が広がる。


「お姉様、美味しいです」


 イチも幸せそうだ。甘い物はいい、心が満たされる。私はチョコレート菓子をくれた麻紀さんに甘えることにした。


「お姉様、頭をポンポンして」

「しょうがないな、三回だけだぞ」


 麻紀さんは私の頭を手のひらでポンポンする。すると、イチは羨ましそうにこちらを見ている。


「私もポンポンして欲しい……」


 その言葉に麻紀さんは優しい笑顔でイチの頭をポンポンする。イチはカーっと、顔が赤くなる。ポンポンが気に入ったらしい。


 そして、メイドの小恵子と共にお屋敷に帰ると。イチはバルコニーでハーモニカを吹き始める。


 ♪~


 路地裏で出会った時の様な寂しさは感じられない。音楽は心を映し出す鏡だ。しばしの演奏が続き、やがて終わる。


「拍手は一人きりでいいかな?」

「はい、嬉しいです」


 そんな時間が流れて夕陽が沈む頃になると。


「川菜、お風呂、お風呂……」


 イチはきれい好きらしい。早速、小恵子に指示を出す。お風呂の形状はマキで湯を沸かして水道の様にバスタブに入れる方式だ。


「一緒に入る?」


 ……。


 私が小首を傾げて悩んでいると。


「川菜のお背中を流す」


 少し恥ずかしいが、ま、よかろう。私達は服を脱ぐと、イチとのお風呂タイムが始まったのだ。


 お風呂タイムが終わるとイチは羽根が欲しいと言い始める。


「川菜、羽根が有れば浮遊島に帰れる。羽根、一緒に探してくれる?」


 イチの話によると羽根が帝都に散らばってしまったから落下天使になったらしい。


 その羽根を一緒に探して欲しとのこと。しかし、今の帝都は社会不安からなる治安の悪化が目に付く。


 毎日のように強盗だのテロだの怖い話ばかりだ。


「女子二人だけで帝都を歩くのは不安だ。お姉様に相談してみよう」


 それは、警官である麻紀さんと一緒なら大丈夫だからだ。


 翌日の天翔虎女子塾での昼休み。


 麻紀さんに会う為にイチと共に講師控室に向かう。すると、麻紀さんはお弁当を食べていた。


「お姉様、お話があります」

「どうした、あらたまって」


 私は深呼吸をすると麻紀さんに帝都での羽根を探す活動を手伝って欲しいと頼むのであった。


「うむ……」


 麻紀さんは箸と止めて考え込む。


「帝都の社会不安の原因が天使であるイチが落下したからだ。だから、天使の羽根を探すのは賛成できる。しかし、今の帝都は余りにも危険な場所が多すぎる」


 アイスクリームを食べに行った新橋はまだ治安がいいが上野や新宿は無法地帯と化している。


「ダメですか、お姉様……」


 ……。


 腕を組み黙る麻紀さんは不機嫌そうにしている。私達が無理なお願いをしたからだ。


 すると、イチがハーモニカを取り出す。


「私、天使に戻りたい」


 その言葉と共にハーモニカを吹き始める。


♪~


「これが落下天使のメロディーなのか!?」


 驚く麻紀さんは心が動いた様だ。それはイチを守ってあげたい気持ちと同時に天使の御加護が受けられる音色であった。


「了解した、落下天使の羽根を一緒に探そう」

「ありがとう、だから、お姉様は大好きです」


 私は麻紀さんにハグを求める。


「おいおい、食事中だぞ」


 麻紀さんはお弁当がこぼれると拒む、それでも私はスキをみて抱きついていた。



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