第2話 インストール ☆
チチチ。
小気味よく一定のリズムで構成された小鳥の鳴き声が、町で一番大き家の窓から陽の光と一緒に部屋へと入る。
掃除の行き届いた清潔な室内には、本棚と書き物ができる程度の小さな机。一室で過ごすのに不自由のないその部屋で、体に包帯が巻かれた銀髪の少女が一人ベットの上で横たわり、静かに眠りに着いてた。
コンコンっと手慣れた様子でノック音が響き、返事がない部屋のドアノブを回した老婆がゆっくりと入室した。
「…やれやれ、これで3日目だよ。いつになったら起きるのかね?」
老婆は眠っている少女の包帯を解いて、綺麗な布をお湯で濡らし体を拭いてやる。
「ふん…あたしゃ、死人の面倒なんて御免だからね。…はやく目を覚ますこったよ」
身体から汚れを拭き取ると新しい包帯を丁寧に少女の身体に巻き付け、水桶を脇に抱えて退室する。
バタンっと聞き慣れない音が空気を揺らした。
【不正プログラムを感知】
【対抗プログラム作成、アップデート……未知の種族を確認…新定義を作成、完了】
【新ステータスシステム、インストール開始】
【E2H2_2A3J1ーI3D5_1へ、ようこそ】
頭の中に直接響くような声が全身に染み渡り、深い無意識の底から覚醒した。
「う、うー?」
まぶたが開かれ、美しい虹色の瞳が露出する。細く動き回る眼球は、少しでも多くの情報を得ようとする機械の本質が表れている。
「木製の窓…惑星上。ファンタルジア…でしょうか」
鈴を転がすような耳心地の良い声を出しながら、周りを確認しようと上半身を起き上がらせた。
「
全身に巻かれた包帯を見て誰かが治療を試みたのを察し、自分を拾った者が悪い人ではないのだとホッと一息の安堵が漏れた。
「私の身体に生物的な治療は意味をなさないのですが……優しい方の様ですね」
包帯を軽く撫でつけ自己診断プログラムを起動し、表示された診断結果の異常性に目を見開く。
「ステータス…なんです……これは?」
名前:サクヤ レベル1 状態:自動修復中
種族:マギテックドール
性別:無 年齢:1
力:113
防御:59
魔力:10
素早さ:50
器用さ: 102
魅力:250
装備:布の服、包帯
スキル:【時空間格納庫】【ダイアモンド精製】【眷属使役】
ステータス確かに月花サクヤの身体には自己診断プログラムの結果を表示するステータス画面は存在したが、それはあくまでもメンテナンスや身体の設定を表示する機能であって、古き良きTRPGの様なキャラクターシートを彷彿とさせるこのスクリーンとは全く違うものです。
「マギテックドール…魔力、時空間格納庫?」
時空間格納庫の言葉を口にした途端、両手が
身体の表面をひんやりとした空気が触れるのを感じて、いま起きた現象が現実のものだという証拠を突きつけられた気がしました。
「え…」
消えてしまった布団は何処へ行ってしまったのか、慌てて手をバタバタと振り回してみるも両手は空を切るばかりで、何かに触れたような触覚を感じることは出来なかった。
「まさか…時空間格納庫?」
はっきりと言葉を声に出して見ると、先程と同じ様に両手の周りが光を吸い込む真っ黒な闇を纏った。
「……も、物が消えたのなら…収納のはず。収納出来たのなら、取り出す事も出来るはず…ですよね?」
今の状態で何かに触れてしまえば、先程の布団の様に何処かに吸い込まれてしまう。そう思い物に触れないよう両手を空に泳がせていると、腕を伸ばした先の手が視界から消えてしまった。
「っ!」
慌てて胸元に両手を引き寄せると傷一つない両手は何の異常もなく、きちんと繋がった状態でそこにあった。
パッと手の平を開いて自分の意思通りに動かせるのを確認していると、ぱさりと太ももの上に布団が被さった。
「これは…先ほど消えた。もしかして…」
もう一度「時空間格納庫」と呟いて布団に触れると、闇に吸い込まれる様に消えてしまう。それから再び同じ言葉を発して闇を纏うと、思い切り手を伸ばす。
見えなくなった手の指先に、布地を触る感触を覚えて掴んで引き寄せてみる。
「できた…」
そこには消えた筈の布団が握られていた。
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