惑星ファンタルジア

第1話 Emergency

 轟々と赤い炎が燃え広がった船内で、私は最後の足掻きとブラック・ローズに乗り込むことを決めた。


「…もうすぐ大気圏に突入します。ロックシェルには…大気圏突入能力はあ、ありません。ブラック・ローズで退船を試みます…すみません」

「ピピ(またね)」


 ロックシェルに最後の言葉を贈ると、船内から真空の世界へと飛び出した。


「許しませんよ…貴方達!」

「ピピ(レーザー効果なし)」

「そんなっ!?」


 ファンタルジアの地表に向かって降下するロックシェルに後ろ髪を引かれながら、急接近と射撃を繰り返す宙賊の戦闘艦に狙いを付けて放ったレーザーは、いとも容易く反射されブラック・ローズの装甲に傷を付けた。


 けたたましい警告音がコックピットに響き、計器を確認したことで状況を悟った。


「あ…重力っ!」

「ピピピピピピ(接近警告、惑星の重力に引き寄せられています)」


 惑星ファンタルジアの引力に捕まり、赤熱するブラック・ローズの装甲を見た宙賊の戦闘艦は、重力の影響を受けない安全な位置まで後退。大気圏内まで追いかける気は無いのか、回収できそうな物を探してフラフラと辺りを飛び回っている。


 ブラスト弾でシールドを破壊され、新設した二連装荷電粒子砲はミサイルの迎撃用で敵船のシールドに阻まれ、ブラック・ローズのレーザーは元々が宙賊から奪い取った物だっただけに、宙賊の間ではではありふれた装備だったのでしょう。対策されていて目立った損耗は確認できません。


「完敗…ですね」

「ピピピ(大気圏内突入まで、カウントダウン…30)」


 ロックシェルは先に惑星に落ちてしまいましたし、ブラック・ローズもまた落ちるまで秒読みです。奪われる物は何もありませんが、それでも生き延びられるのかは運頼みになってしまいました。


「ふふふ、せっかくの新装備だったのですが…」

「ピ、ピ、ピ、ピ、(8、7、6、5)」


 周囲を確認しても何も無かった事に気が付いた宙賊の戦闘艦から、レーザーが放たれブラック・ローズの黒い装甲に穴を開ける。


「ふふ、やつあたり?」

「ピ、ピ(3、2)」

「黒い高速船に灰色のドクロ…忘れません。必ず…」

「ピピ(大気圏突入開始、)」


 大気は震え、空には一筋の流星が走った。


「…ハァ、ハァ」


 青色の鎧を着込んだ青年は月明かりを頼りに、先祖を祀る慰霊碑が立つ洞窟へと辿り着いた。洞窟に入ると同時に持ち込んだたいまつに火を灯し、炎よ明かりを振りかざして前へ奥へと歩き出す。


 洞窟の奥地まで進むと偉大なる先祖「紺青こんじょうの勇者」が祀られている慰霊碑が姿を現す。慰霊碑の周りに咲いた色とりどり花が祖先の無興を慰めている。


「時が…来ました。必ずや龍王を倒し、勇者の役目を果たしてみせます…」


 青年は静かに慰霊碑へと祈りを捧げると、慰霊碑に埋め込まれた宝玉を抜き出す。目的を果たし洞窟を後にした青年が見上げる星空には、長く尾を引く流れ星が通りすぎた。


 青年が洞窟の入口に立った頃、ランダトーテ王国の王室で出された命令を聞き付けた姫が、父である国王に食って掛かっていた。


「お父さま、どういう心積りなのですか?!」


 王家の威信を示すかのように美しく整えられた王家の一室で、ソファに腰を下ろし体を休めていた国王は入室した娘に顔を向けた。


「ローズ…何を猛っておるのだ」

「勇者の件ですっ…なぜあんな命令を出されたのです?!」


 姫の言葉に得心がいった国王は、緩やかな動作でソファから立ち上がるとサイドテーブルの上に置かれた鈴を鳴らして振り返った。


「お前には関係がない事だろう」

「関係がないなどと!」

「ローズ…古い勇者は必要がない。……そうは思わんか」


 語り掛ける国王の目にどこか薄黒い気配を感じた姫は得体のしれないものから距離を取ろうと後退りした。


「失礼します、陛下。…お呼びにつき参上しました」


 鈴の音に呼び出された近衛騎士が入室と同時に深々と頭を下げる。


「うむ…」

「お父さま……。まさか」

「姫を連れて行け、そろそろ勇者の試練が始まる」


 近衛が深々と頭を下げ「ハッ!」と了承の意を示すと、姫を連れて部屋から退室した。


「…おお、流星か。新たな時代への導きとなるであろう」


 数日後、世界は新たな勇者の存在と神の声を聞くことになる。


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