第11話 1番コロニーBユニット商業区画

 1番コロニーに寄港し、底を突きかけている燃料の補給手続きを終えてコロニーに足を踏み入れます。


 宇宙から見たコロニーの外観はAユニットとBユニット2つの円柱状の筒が、並行してゆっくりと回転している様に見えます。実際は常に重力を必要とする住居区画が回転していて、他のエリアは必要な時に重力制御装置で重力をコントロールする混合タイプです。全てを重力制御で管理すれば良いのにと思うかも知れませんが、重力制御装置は何十年も稼働を続けさせるには高価で、結局のところ混合型の方が維持コストが抑えられるのです。


「コロニーのエントランスエリアは、どこも同じですね」


 船を降りて最初に向うのは、エントランスエリア。


 長椅子は整然と並べられて、定期船の時刻表がホロディスプレイで表示されています。出入りに行われる検疫と荷物検査は、誰が見ても入国検査そのものです。


 これからコロニーの中に入るのですが、目的は特にありません。普段は採掘して補給に戻るの繰り返しで、コロニーの内部まで行くことは滅多にありません。


 今回は補給の合間の時間を使ってコロニーの生活に触れ、未だ不確な複数の国や人種についての情報が欲しいものです。


 検査を済ませて向う先は商業区画。興味としては住居区画の方が上で、コロニーでの生活を知るにはそちらに向うのが正解なのですが、知り合いが暮らしているわけでもない者が出入りするのは不審に映るでしょう。


 住居区画はA、Bどちらのユニットにもありますが、これから向うのは造船を行っているBユニットの商業区画。住んでいるのは泊まり込みの作業員や商業区画で働いている人々が中心で、学校や公園などの一般家庭が暮らすのに求められる施設はありません。


「いらっしゃい、コークス社製ブラスト弾が入った。これで賊共のシールドを消し飛ばしてやれ!」

「さぁさぁ、ご覧よ新型レーダーのご登場だ。ほーら片手で持てちゃうサイズで、最大感知範囲は5万メートルだ!」

「おいおい、予備の燃料や修理キッドも持たずに宇宙に出るもんじゃあない。今ならセットで4000クレジットだ!!」

「信用できる乗組員が欲しくはないか、ワシが用意したのは、裏切る心配のないマシナリーパッセンジャーじゃ。5機一組ワンセット15万クレジットじゃぞ!」

「おいおい、手頃な戦闘艦はダッチの店さ。宙賊戦闘艦のリストア品だが、ベテラン整備士の手で新品同様だ!」


(…思っていたより随分と賑やかですね)


 威勢の良い客引きの声は購買意欲を刺激するのか、売り文句が飛び交うたびに数人の客がフラフラと動いている。


 商業区画の出入り口付近は片手で持ち上げられる程度の小物を扱った露天が立ち並ぶエリア、中には買取専門の露店や店舗からの出張所も開いていて、このエリアだけで大体の物は揃ってしまうだろう。


(装甲板…食料品に冷却ノズル。売れそうなものは手当たり次第ね)


 果物の様に山積みにされる小型ジェネレーターを横目に、雑多な雰囲気を満喫している。


(これが図書館のデータにあった屋台通り…ふふふ)


 屋台通りはもう終わりかというエリアの境目のすぐ横で、小箱を並べている露店を見止めた。


「はーい、お楽しみ。フォーチュンボックスの販売だよぉ!」

「フォーチュンボックス?」

「おっと…お嬢さん、興味ある感じぃ?」

「ええ…まぁ」


 如何にも怪しげな風貌の店主は、漏れ出た疑問の声を聞き逃さなかった。


「知らないようだから説明しよう。この小箱はフォーチュンと言って、惑星ファンタルジアのダンジョンって場所で生産されてる不思議な箱さ」

「はぁ?」

「あ、信じてないな。まぁ俺も最初聞いた時は、冗談の類かと思ったけどよ…」


 店主が言うには惑星ファンタルジアは偶に発見される剣と魔法のファンタジーで技術発展した惑星だそうで、銀河中でも珍しい原子げんし「魔素」を保有している。この魔素は魔素同士が影響し合う性質を持ち、魔素を体内に持って産まれたファンタルジアの住人は体内の魔素を通して大気中の魔素を操作できる。


 これが現地民の言葉で「魔法」と呼ばれる特異技術である。

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