間休話4 新人アイドル?!前編
ロックシェルの設備を点検している私の元に一通の連絡が届きました。内容はホロテレビのアイドル発掘企画「スターライト」の出演オファー。
思わぬ打診につい「わひゃあ!?」と素っ頓狂な叫び声を上げて、作業をしていた高台から転げ落ちてしまいました。
作業中は歌を口ずさむことが多いのですが、歌を気に入ったタマがよく私の足元まで転がって来てボケーっと聞き入っています。しかし、自分から人前で歌を披露する機会などありませんし、精々がケンさんとの初対面ぐらい。
一体どこからそんな話が持ち上がったのかとメッセージを確認すると、商業ギルドからの推薦が原因だとか。その文字を確認した私が向かう場所はただ一つ。
「リジニアさん、どう言うことですか?!」
商業ギルドで一番顔合わせをする受付担当のリジニア・フユウゲーラさんの所を置いて他にありません。
「お、落ち着いてくださいサクヤさん」
「落ち着いてなんかいられませんよ!」
驚いた拍子にズレた赤いフレームのメガネを直して、私の声で集まった視線を気にするようにエメラルドグリーンのボブヘアを揺らしながら制止する。
「ホロテレビの話でしょ?」
「そうです。なんで私にオファーが来るのですかっ!」
「…それって実は、数合わせの手当たり次第って話でして」
「数合わせの?」
「手当たり次第です…」
詳しい事情を聞いてみると出演依頼は私だけでなく全ての
「対象が20才以下の女性だからって、遅れる相手には手当たり次第よ」
「じゃあ出なくても?」
「勿論、問題ないわ
「なんですか、その怪しいデビューは」
「アイドルじゃなくて、一曲だけの歌手デビューかしら?」
「か、歌手ですか…」
「新星への招待状」とかいう売り文句の所為で、私だけを狙いうったメッセージが届いたのかと思って、無駄に大慌てを演じていらぬ恥をかく羽目になりました。
怪しげな招待を受けずとも良いのなら、招待状は放置して普段のお仕事に戻りましょう。
「なーんで、私がエントリーされているんですかねぇ?」
「ピ?」
「あの…「曲を売り出したらいつでも歌を聴けるから?」じゃないんですよ。どうしてくれるんですか、私のアレは披露する予定はないんですよ!!」
「ピピピー?」
「「ふぅ、やれやれ」じゃないんですよ。何をうるさいなぁ…みたいな情緒で呆れてやがるんですか!?」
「誤魔化されませんよ!」「ピピ」「あー、会場で披露する歌の申請……この銀河系の曲なんて知りませんよ!!」とドタバタ劇を繰り広げる中、準備は進みライブ当日を迎えた。
『はーい、みんな約束守ってドキドキしてた?』
『私達はもう爆発寸前、進行役のアーベン・スティチと?』
『口約束の守護者、モールト・ソンバーがお送りするぜ!』
ワッと湧き上がる歓声が会場に響き渡る。色とりどりのライトスティックが会場を埋め尽くし、集まった人々の多さを雄弁に語る。
会場を見渡した司会のオレンヒト、モールト・ソンバーがその様子を満足気に眺めている。
『さあ、みんなお待ちかねのライブの時間だ。今回のライブは42番
『その数なんと1万5千人!』
進行役のインセクティアの女性が両手の鎌を振り回して、大袈裟な挙動で大人数をアピールしている。
1セクターの範囲はそれなりに広く、セクターによっては複数の恒星系を抱えている。私がいる42番セクターも3つの恒星を抱えた比較的人口の多いセクターであり、総人口は約7500億人。それを思えばこの番組に参加した人数のなんと少ないことだろう。
『では42セクター記念すべき1人目は、この人!』
『ガーランド種の12歳。サイレンス・レインさんで「星くずの彼方」!』
出たくなかったアイドル発掘番組が、本格的に始まってしまいました。
1曲4分の持ち時間を見事に歌いきっ切った少女たちが、一抹の不安と共にステージを後にして行きます。
1万5千人の4分なのだから、観客が支払う時間は膨大なものになる。時おり出入りする人の動きが見えるから、全員が会場に留まっているわけでは無いようです。
『さぁて、次のパホーマーはガーランド種、11歳のお嬢さん。サクヤちゃんの登場だ!』
『なんと幼いながら、自分で作詞作曲した曲を今日初めて披露してくれます!』
言い訳をさせてください。なぜ11歳なのか、なぜ自分の作った曲持って来たのか、その言い訳を。
事の発端は、タマが勝手にエントリー申請を出した事から始まります。この如何にも視聴率を確保できそうにないアイドル発掘企画に出る事になった私は、このダメストロ銀河のアイドルがどういったものなのか知りませんでした。
非常に遺憾ながら番組に出る事になった私は改めて届いたメッセージを精査し、歌う楽曲の指定や舞台衣装の用意に必要な
私の
そんな怪しい番組ではありますが、会場でのライブまでそう時間がある訳ではありませんでした。だからこそ身元の不確な私にまで出演依頼が来たのでしょうが、やっかいだったのが楽曲の指定です。
アイドルを知らない私が、この銀河系の楽曲など知る由もなく。流行り廃りの早い音楽界の事情も相まって、適当な曲を選ぶのは至難の業。当たり障りのない曲の選定に必要な知識もないのですから、アイドルぽい曲を自分で書き上げる他なかったのです。
せめてもの抵抗として、大滑りしても微笑ましいと済ませられる10代前半の少女として、エントリーシートに申告を出しました。
壇上に上がりペコリと一礼をすると、この数サイクル悩まされた曲が流れ始める。
『曲はサクヤちゃんで、ネヴァートラップ』
最小単位で演算、投影される立体映像が古い街並みを再現した舞台を創り上げる。私は心を無にして曲に合った役を演じます。
「どったバタ今日のー、運命感じるトラップ!」
どうせ一度歌えば、お役目御免です。開き直って歌い切り、どうか余計な恥をかきませんようにと祈りながら人より頑丈な身体を活かして舞台を跳ね回った。
「毎日に潜むよ、Never Trap!!」
憂鬱な始まりとやり切った後の爽快感が切り替わり、もう1度ぐらいと欲が湧きだって来るほどのギャップ。高所から落下するアトラクションによく似た仕組みが、私の心を揺さぶっていた。
曲が終わり最後にもう1度頭を下げて舞台を後にする。私がいなくなってから聞こえた歓声が、ライブの成功を証明していた。
「はぁ~、なんとか無事に終わりました」
調度品のなく飾り気のない控室に戻って呟く。
「予選を勝ち抜ける訳はありませんし、今の内に帰りの用意をしておきましょうか」
番組自体が予算に余裕がないのかエントリーの数に応じて送迎の船が用意されたり、されなかったりしている。42番セクターは100人を超えたので送迎の船が出ていて、代金は勿論無料です。おかげで船代を気にせず、のんびりコロニーに帰れるというものです。
「あれが自作?」
「なんなのよ、あのパフォーマンスは」
「あうう、あんなの勝てないよ」
「勝てないなら…いっそ」
あとは帰るだけだと呑気な私の後ろ姿を見つめる複数人の目があった事など、私は知る由もなかったのです。
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