第9話 イブツ

「…困りましたね」


 いつものようにロックシェルで小惑星を切り裂きコンテナに詰め込む労働を享受していた頃、時おり岩の中から小惑星の形成中に巻き込まれたと思われる古代遺物アーティファクトが出てくる事がある。


 星にも寿命があり大抵の古代遺物アーティファクトはそんな星の最後と共に形を残した文字通りの星の遺物でもある。


「人…ですよね」


 極々稀ではあるものの機能が生きている状態の機械的な異物が発掘される事がある。今回見つけた古代遺物アーティファクトは生命という意味の生きていると言うよりも、機械的に生きていると形容した方が正しいでしょう。


 通い慣れたアステロイドベルトで、小惑星の中から微弱な電波が発せられているのをレーダーで認識した私達は換金できるジャンク品を目当てに船を回した。視界内に発生源を確認できなかったので、付近の小惑星を採掘した所にこの奇妙なアーティファクトに遭遇したという訳でして。


「コレ、何処までがアーティファクトなのでしょう?」


 発見したアーティファクトを一言で説明するなら「石像」でしょうか。材質の判断は出来ませんが見た限りは、全身が土色の岩で創られた髪の長い女性の上半身を象った像でしかないのですが、小惑星の岩石に覆われるようにして存在していたソレは、ロックシェルのレーダーが感知した電波を発していました。


 アーティファクトに傷を付けないように岩から掘り出した訳ですが、アーティファクトを専門に研究をしている専門家に売却する予定です。クブアで言う所の考古学者ですが、コロニーに研究所が用意させている程度には期待と実績が釣り合っていました。


 過去に有った技術を再現したり、未だ判明していなかった新しい法則がアーティファクトから再発見された例もある。


「…何でしょうか、この不快感」


 この女性像を一目見た時から感じてやまない不快感。後はコンテナに詰め込むだけなのですが、ロックシェルに乗せたくないと躊躇してしまいます。


「損得、ではありませんね」


 不愉快な像をコンテナに入れ、厳重に梱包するとアステロイドベルトの中に放置する事にします。コンテナの中ならばアーティファクトから電波が流れてもコンテナの外に電波が漏れ出る心配はありません。


「せめてコンテナは古いものを使いましょう。…はぁ、しばらく他の宙域セクターに移りましょうか」


 良くしてくれていたケンさんも強盗事件の2サイクル後にはお迎えが来て軍に帰り、親しくなった知り合いもいない中で8番コロニーにとどまる理由は特にない。強いてあげるのなら普段の移動以上に燃料代がかさむ事ですが、その程度を賄えるだけの蓄えはあります。


「…この辺りでの採掘もこれ以上は気楽に出来そうにありませんし、今回の採掘を終えたら別のセクターに移りましょう」


 それから3時間しっからと採掘作業を行い、一杯になったコンテナを抱えて8番コロニーにへの帰路につきました。


 ガゴッ。


 音の響かぬ真空で古ぼけたコンテナの内側から何かが衝突したようにその形を大きく歪ませた。一度、二度と衝撃を加えられ続けたコンテナは次第に亀裂が走り、その亀裂によって生まれた隙間から黒く細い糸の様な線が無数に飛び出し、周囲に浮かぶ小惑星に突き刺さると小惑星を黒く染め上げた。


 黒く染まった小惑星はボロボロのコンテナに引き寄せられ、一度コンテナに衝突すると形を維持できなくなったのか容易く崩壊した。


 小惑星が黒く染まるたびに黒い糸はその数を増やし、中身が肥大化しているかの様にコンテナが内側から圧迫され次第にコンテナは丸みを帯びてゆく。


 小惑星がコンテナに衝突する衝撃が運動エネルギーとなって、コンテナに緩やかな移動をもたらした。


 糸の数が増え、引き寄せられ衝突する小惑星も増加し、すっかり球体に形を変えたコンテナは小惑星の衝突によって加速を続け、目的地を持たず宇宙を流れて行った。

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