第8話 ば〜じょんアップ

 先日の盗難船ことスペードランサーの礼金としてハイスピードグリーズ社から200万クレジットが支払われ、私のお財布事情に若干の余裕が生まれた。


 その資金を使って月花サクヤの機能をターミナルの機能を身体にに取り込む形で強化アップグレードした。この強化の結果、この銀河系で一般的な人類種の様に身体にナノマシンを注入せずとも外部との連絡や資金管理収支管理、購入、売却、レンタル諸々が行える。高いターミルを購入した時点で機能的には必要の無い強化ですが、人類に擬態するには避けて通れない出費です。


 強化アップグレードに伴い言語が一部、共有言語に置き換わりました。具体的には数字関連で今までは一々変換していたので多少楽になりました。


 それなりの資金を獲得さた私ですが現在の所持金は26万700クレジット。一体何に注ぎ込んだのかと聞かれると資格を取るのに使ったのです。


 何の資格を取ったのかと言うと「小型船操縦資格」「C級通信士資格」「B級操舵士資格」「D級医療者資格」になります。


 あの不思議な強盗事件スペードランサー強盗事件の後、詳細が気になっていた私は事件の詳細を調べる手立てなどなく、公開情報であるニュース番組を視聴していました。ハイスピードグリーズ社の

開発中に奪われた未完成の船だったようで、警察発表ではボートレースに憧れたガーランドによる押し入り強盗だった。ケンさんが言っていたので確認したニュースでしたが、その後のコメンテーターの「どうせ資格もない無鉄砲な若者でしょ?」という言葉で背筋が凍っ様に固まってしまいました。


 新しい船を購入しようと考えていた私は、急ぎ宇宙船関連の資格を調べました。そうして理解した内容は私が迂闊で危険な綱渡りをしていたという事実でした。


 宇宙船の航行には資格が必要である。


 考えてみれば当然の事ですが宇宙船とは繊細な技術の塊です。クブアでさえ車の運転をサポートボールに任せることで免許が不要になったが、元々は数段階の試験を合格して初めて車の運転が許可された証である免状を発行される。宇宙船の操作に関する資格があるのは至極当然でした。


 私は出身が不明扱いのため資格の取得場所が各組合ギルドにしかなく、まだどのギルドにも所属していなかった私は資格がなくて当たり前といった状態でした。


 そんな私が拘束されるでもなく放置されていたのは、ブラック・ローズが船ではなく未知の機体で法律の関わる条文が存在しなかった事とケンさんの知名度の影響で見逃されていたのでしょう。初めての航海で事件の解決に協力した形になったおかげで、その場での逮捕は免れた形だったのです。


 急いで商業ギルドに加入し操船な必要な資格を取得して事なきを得ましたが、ギルドの加入金や資格取得の各種代金を支払って結構な金額がお財布から出ていってしまいました。とても新しい船を買う代金には届かず、資格取得時に学んだインストール知識を元に必要な設備の購入、イノシシもどきとの戦闘から損傷したブラック・ローズの修復にクレジットを使いました。


 そんなこんなでドタバタと数日を過ごし、合間合間に採掘を続けて残ったクレジットが約26万クレジット。採掘業事態の収支はプラスで、採掘する小惑星の当たり外れが大きく収入は安定しないのですが支払いが燃料と停泊代、補給しなければ怪しまれてしまう長期保存の食料ぐらいですから、支払金額が高額になることは今の所ありません。


「管制塔、こちら採掘船ロックシェル。停留所より出航申請です」

『はいはい、こちら管制塔。…あー、今日もお仕事ですか偶には休暇を取られては?』

「まだ10連勤ですよ…ガイドをお願いします」

『了解。案内灯、点灯…確認。よい航海を』

「ありがとうございます。…ロックシェル出航」


 商業ギルドに加入した事で岩石の売却時に支払う諸々の税金がお安くなり、結果として売却価格が上がりました。単純作業で暇な時間が多いのが玉に瑕ですが、その間は中型船の操船資格を取得する勉強に充てています。


 大型船も動かしたい所ですが個人で所有するのは貴族くらいで、後は国や企業などの団体らが所持している程度。目標はブラック・ローズ格納出来る専用ドック付きの船です。


「目標ポイント、アステロイドベルト。高速航行開始」


 しばらくは地味に稼ぐ日々が続きそうです。

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