第5話 中古の船

 船のカタログを眺めながら、ブラック・ローズに直結させたレーザー兵器を取り外しています。あの戦闘では時間がなかったのでパワーを直結させましたが、このままでは右腕が使用不能ですし何より危険です。


「タマ、貴方はどんな船が良いと思いますか?」

「ピピ」


 多分「なんでもいい〜」とか言っているのでしょう。確かに悩むほど選択肢がある訳ではないのですが選ぶとなると不安です。


「正規の貨物船は高くてとても手が出ませんね。…五十tの貨物って何があるのでしょうか?」


 調べてみると宇宙の貨物は可能な限りまとめて運ぶのが一般的で、設備やスペースが確保できたのなら何でも運ぶようです。それでも五百kgのぬいぐるみ等の駆け出しに向いた小物もあり、相応にお安い報酬ですが仕事が無いというようなこともない。


「ほー、洗剤や布地にトマト……トマトとは何でしょう?」


 ターミナルの表示を見ながらも手を止めず、レンタルした工具でレーザー兵器との分離に成功します。ドック内の重力装置を切ってもらっているので、床にドカンと落としてしまうようなことはありません。


 レーザー兵器とは余り実用的な兵器ではありません。確かにレーザー兵器はエネルギーさえ供給すれば良いので弾薬の類は必要ありませんし、基本的に無音で無色透明の直線が光速で対象を焼きますから、その命中精度はとんでもなく高い。その代わり威力がかなり低く、宇宙船の装甲を貫通させるのはほぼ不可能でしょう。しかし、レーザー兵器の威力が低いのは消費エネルギーの兼ね合いなので、ヤタチニウムが搭載されたブラック・ローズならそんな欠点を鼻で笑えてしまえます。


「しかし、宙賊のレーザーは何で色付きなのでしょうね」

「ピピ」

「ええ、宙賊がレーザーを装備していたのは、船を傷付けずに武装のみを排除する為でしょう。でもレーザーに色を付ける必要ないじゃないですか?」

「ピピー」

「…そうですよね知りませんよね」


 取り外したレーザー兵器の型番を確認してターミナルからデータを呼び出して点検し、ジャンクな部品を購入して手持ちに出来るように改造します。部品が届くまでの間は、再び中古船のカタログを眺めます。


「買取り…しているんでしたよね」

「ピ?」

「やはり、いきなり人様の荷物をお預かりするのは不安に過ぎます。……自分の物を買い取ってもらいましょう」


 私はターミナルの検索項目に「採掘船」と入力した。


 翌日、注文した部品と小型の採掘船が届き創業の準備に取り掛かります。


 私が購入した船は、ガーランドの造船メーカー「ウィンチェポンプ社」製の小型採掘船HIC-02-RK001「ロックシェル」です。総積載量百二十tの大容量と、船体に内蔵されている採掘用レーザーが船の前面分に一門搭載されていて、使い古しの鉱石コンテナが四箱付いて二十万クレジットのお買い上げです。


 使用した金額としましてはレンタル工具が二百三クレジット、ジャンク部品が五千クレジット、ロックシェルの二十万クレジット、運送費で二万クレジット、船の燃料費で五千クレジット。締めて二十三万二百三クレジットの出費です。初期投資とも言いますが、残金は二千五百四十七クレジットです。今日の分のクレジットを支払ったら六百以外にの残金になります。


 購入した部品は一部解体され砲だけの寒々しい姿から、持ち手とトリガーが追加された。エネルギーは相変わらず腕からの有線供給ですが、右腕が使えないうえに誤射の可能性があった昨日よりはマシなはずです。


「タマ、早速お仕事ですよ」

「ピピピ」


 ブラック・ローズを動かして空っぽのコンテナを積み込むと、カーゴの空いているスペースに無理矢理乗せて管制塔に出港の申請を出します。


「こちら採掘船ロックシェル、管制官さん出港の申請です」

『こちら管制塔、ドック内の気体を排出します。職員及び乗員は、速やかに安全な場所に退出してください。排出開始まで十秒……五、四、三、二、一。排出開始』


 シューという音がドック内に響き、気体が抜け切って無音になった頃管制官から出港のの許可が降りました。


『お待たせしました。ロックシェルの出港を許可致します。ドック開放後、出港してください』

「ありがとうございます。ドックの開放を確認しました。ロックシェル出港します!」

『良い航海を』


 私の駆るロックシェルはモタモタと怪しい滑り出しながら出港を果たしました。目的地は所有者のいないアステロイドベルトで、出航したコロニー付き港からこの船でおよそ二時間の船旅です。


「燃料に不安がありすぎて遠出はできませんし…距離的にはギリギリ、いえブラック・ローズで押してやれば節約できますし……なんとか」

「ピピピー」


 左右を流れる小粒の光を見送りながら、不安で一杯の航海が始まりました。

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