第4話 「勇み足だったのは認める」

 借りている港のドックに入るとムスッとした顔のケンさんが、腕を胸の前で組みながら立っていました。


「何をしているんですか?」

「いや…その、だな。受け渡されるターミナルで勝手にブラック・ローズが売られてないかと…」

「ターミナルは丁度ケンさんと入れ替わりで受け取りましたよ。連絡が多く来ていたので驚きましたが」


 連絡は下から「アロン銀河系ID登録完了のお知らせ」「シースケイルパラディンからの入金連絡」「購入代金の引き落とし」「宙賊討伐報酬の入金」とオレンヒトのお姉さんが教えてくれた内容が記載されていました。


「勇み足だったのは認める」


 私の手にあるターミナルを見たケンさんは、照れたように呟きます。ですが言われてみれば私が関与できない所でブラック・ローズを失っていたかもしれないのですから、ケンさんの勇み足で済んだのは有り難い話です。


「それで、いくらになったんだ?」


 ターミナルの見た目は一見ただの白い棒なのですが、私が棒の中から同じ縦幅の紙を引き出す様な動作をすると、セルリアンブルーの半透明な立体画面が現れて操作が可能になります。


 雪色せっしょくの筐体を覗き込むケンさんに苦笑いを零しながら、入出金の確認した項目を開いてみせます。


「ほー、二十三万二千七百五十クレジットか」

「はい…あの船は売却してもよろしかったのですか?」

「ああ、あの寄せ集めか…。良いんだ俺は軍に残るし、自分の船は別にある。それに積載量は高が知れているから、サクヤさんも使わないだろ?」


 交易センターのお仕事を引き受けるなら、運送しても送迎でも量を運べる輸送能力は不可欠です。純正品のブロック工法船ならば簡単に拡張が可能ですが、あの船では厳しいのでしょう。


「そうですね…積載量の多い船の相場は分かりますか?」

「それならターミナルで売りに出されてる船を見てみると良いぞ。宇宙では大体が時価だからな…操作は分かるか?」

「えっと…こうですかね」


 ケンさんはナノマシンを注入している方なのでターミナルの操作は詳しく無いようでしたが、ナノマシンから情報を得ているのか、ぎこちないながらも一通りの操作方法を授けてくださいました。


 早速を尊び新たな船を求めて、マーケットを開き船舶の欄から船を眺めます。


「必要な積載量とはどれくらいなのでしょうか…」

「積荷次第だがカーゴが…そうだな本業にするなら天井知らずだろうが、触りに使う船なら五十tトンぐれぇあれば働けるだろうな」

tトンですか…面積ではないんですね?」


 ケンさんは「ああ」と頷くと重さに応じてカーゴに積み込むコンテナのサイズが決まっているらしく、輸送関係者なら重さで面積が分かるそうで、お互いにそれで通じるのだそうです。


「まぁ、サクヤさんの場合だとブラック・ローズを積み込まないといけないから、もうちっと大きいのが良いとは思うが…」

「あ、そうですね」


 ブラック・ローズの重さは約十六t。これからの武装追加を考えると二十tは余裕を持たせておきたい。


「では七十tですか…ありますかね?」

「ま、根気よく探すこったな。燃料とか船以外にも飛んでいくクレジットは多いから、ある程度はクレジットを残しておいた方が良いだろうし」


 一先ず宿泊施設に予約を取り、安宿のエントランスでケンさんとはお別れになります。


「ケンさん、この後のご予定は?」

「軍からの迎えが来るまでの数サイクルはこのコロニーで待機する事になった。何かあったら呼んでくれ。これ俺のIDだ」


 ターミナルが着信を知らせる音を鳴らせるとケン・オーダーの名前と共に、連絡先を登録するかの確認画面が表示される。


「ありがとうございますケンさん……今更ですが私のことはサクヤとお呼びください。こんなにも良くしていただいて、未だ何も返せていないのが申し訳ないですが…右も左も分かりませんので、お世話になります」

「俺も拳でいい…それに助けられたのは俺の方だ。サクヤが居なかったらあのデカイ生き物に食われてた」


 おどけた様子で言葉を返すケンさんに、これからは暫くお別れなのだと思うと心細さが募ります。


 それはそうと偽装の為には、切り詰められる宿泊費を払わなければならないのは懐に厳しいですね。購入する船には寝泊り出来る設備がある物を選びましょう。

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